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      平成 30 年度指定
 
 
 スーパーサイエンスハイスクール
 
   研究開発実施報告書
 
 
          第2年次
 
 
 
 
         令和2年3月
 神奈川県立希望ケ丘高等学校
                                  目   次
 
 
    はじめに   校長   宮地   淳
 
 
 令和元年度スーパーサイエンスハイスクール研究開発実施報告(要約)……3
 
 
 令和元年度スーパーサイエンスハイスクール研究開発の成果と課題…………9
 
 
 令和元年度スーパーサイエンスハイスクール研究開発実施報告………………16
    1   研究テーマ1…………………………………………………………………16
    2   研究テーマ2…………………………………………………………………43
    3   研究テーマ3…………………………………………………………………48
    4   生徒意識の変化について……………………………………………………50
    5   成果普及と今後の課題について……………………………………………52
 
 
 関係資料………………………………………………………………………………56
    令和元年度教育課程表
    令和元年度第 1 回 SSH 運営指導委員会議事録
    先進校視察報告書(抄)
    SSBasicII自主作成教材(日本語編、英語編)
    2年生意識調査結果
    図版(実習風景、2年課題研究発表ポスター)
                                         は じ め に
 
 
 
                                                                          校 長   宮 地    淳
 
 
   本校は明治 30 年、神奈川県最初の県立(旧制)中学校である神奈川県尋常中学校として横浜市西
 区藤棚町(旧久良岐郡戸太町)に創立されました。その後、明治 34 年神奈川県立第一中学校、大正
 2年県立第一横浜中学校、大正 12 年県立横浜第一中学校、昭和 23 年県立横浜第一高等学校(新制
 高等学校)、昭和 25 年神奈川県立希望ケ丘高等学校として歩んでまいりました。創立 120 周年を記
 念した平成 29(2017)年度、「平成 30 年度スーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校」に
 申請し、平成 30 年度から SSH に採択されました。
   平成 30 年4月に SSH に対応させた新たなカリキュラムをスタートさせると同時に、職員の業務体
 制も大幅に組織再編をおこない、今年度末でその体制も2年が経ちました。教育課程の研究開発とと
 もに、校内の推進体制も当初の計画書段階からは柔軟に組織再編を繰り返しながら、SSH 指定3年目
 を迎えようとしています。
   令和元年度は、2年生対象の学校設定科目「SSBasicII」「SS 希望I」の初年度となり試行錯誤で
 あったことは否めません。そして、特に平成 30 年度後半から外部資源として職員研修を進めてきた
 一般財団法人 SFC フォーラムの協力を得て、「論理コミュニケーション力育成プログラム」の導入
 (SSBasicII)もスタートしました。
   また、本校の SSH 実践の仕組みである「ICT を日常的に活用できるような環境づくり」について
 は、神奈川県の県立高校全校導入に向けた BYOD 先行導入試行校としてその環境設定でも模索をつづ
 けました。特に、生徒も職員も次世代を生き抜く ICT 利活用スキルを身につけ、「生徒の学び方改革」
 と「職員の働き方改革」についても神奈川の県立高校の先進事例となる試行を繰り返した一年でもあ
 りました。
   平成 30 年度全国 ICT 教育首長協議会の 「Microsoft Education ステップモデル校プロジェクト」
 のモデル校であった取組を持続可能なかたちとするため、神奈川県教育委員会が「県立高校改革実施
 計画」に基づく「県立高校生学習活動コンソーシアム」で連携協定を結んだ日本マイクロソフト株式
 会社の支援プログラムの活用も進みました。
   次年度は、SSH 指定3年目となり、すべての学年の学校設定科目「SS BasicI・II」「SS 希望I
 ・II」「Scuola キャンプ」「Scuola セミナー」を全面展開することになり、全職員体制で SSH を進
 めていくことになります。
   実施体制や指導体制、職員間の共通理解や振返り、その評価方法等、教職員の人事異動が激しい公
 立学校における持続可能かつ発展的な仕掛けづくりが重要だと再認識しているところです。
   研究開発を進めるにあたり、文部科学省、国立研究開発法人科学技術振興機構、神奈川県教育委員
 会、運営指導委員の先生方及び関係諸機関、協力企業の皆様に多くの御支援、御協力を賜りましたこ
 とに感謝申し上げます。
 別紙様式11
                                        神奈川県立希望ケ丘高等学校          指定第 1 期目       指定期間
                                                                                                3004
 
 
               令和元年度スーパーサイエンスハイスクール研究開発実施報告(要約)
 
 
  1    研究開発課題
   新たな価値を創造できる人材を育成する課題研究を中心とした体系的な学びの研究開発
  2    研究開発の概要
   課題研究を中心とした 学びを通して、5つの力、「課題設定力」「情報活用能力」「言語能力」
 「論理的思考力」「協働して課題解決する能力」を育むために、3つの仮説を設定した。前年度か
 らこれまでに以下の取組を行った。
 ≪仮説 A≫ 教科融合型の学校設定教科「SS 希望」の設置
   平成 30 年度   1年生に「SSBasicI」「Scuola キャンプ」「Scuola セミナー」を開講
   令和元年度     1年生の科目を継続、2年生に「SS 希望I」「SSBasicII」を開講
 ≪仮説 B≫ 大学や研究機関などの外部資源を活用した研究の充実
   地球温暖化対策推進協議会、SFC フォーラムをはじめ、4公共機関、4大学、1企業、1県立高
 等学校から、学校設定科目の授業、職員研修の実施で支援を受けた。
 ≪仮説 C≫すべての教科・科目における主体的・協働的な学習の実践による論理的思考力の育成
   「ルーブリック評価研修会」「ICT 研修会」「論理コミュニケーション研修会」を実施し、研
 究授業を中心に各教科で実践例を作った。
  3    令和元年度実施規模
 全生徒を対象に実施
      普通課                1年生                        2年生                       3年生
                   生徒数            学級数      生徒数            学級数     生徒数            学級数
                      358              9         364                9        357                9
 
  4    研究開発内容
 ○研究計画
   第2年次の年度当初での5年間の研究計画
  年次         実施目標
  第1年次     学校設定科目「SSBasicI」「Scuoa キャンプ」「Scuola セミナー」の開講
               第2年次から開講予定の学校設定科目「SSBasicII」「SS 希望I」の実施方法検討
               大学、企業、団体など連携先の開発
               ICT 活用、ルーブリック評価のための職員研修の実施
  第2年次     学校設定科目「SSBasicII」「SS 希望I」の開講
               課題研究の研究班、指導教諭、外部助言者によるクラウド活用の実践
               授業における ICT 活用、ルーブリック評価の実績を積む
               6月来校予定の姉妹校(アメリカ合衆国サンフランシスコ市セイクリッドハートカ
               セドラル高校)に SSH 学校設定科目の体験を取り入れ本校生徒と、課題研究を通じ
               た交流をおこなう。
               地域貢献活動(小学校との交流)や記念祭(文化祭)での SSH 活動の報告や成果普
               及在学中の活動の記録の在り方について、大学等と協議
  第3年次        学校設定科目「SS 希望II」の開講(学校設定科目のすべてが開講)
                  課題研究の成果を“日本文+英文要約”にまとめ、クラウド上に保存し共有する。
                  課題研究の発表先の開発(SSH 全国生徒研究成果発表会以外でも発表)
                  指定期間の前半に関する総括、各事業の内容見直し
                  1年生の外部連携先へ、これまでの取組成果をフィードバックする。
                  主に県内の SSH 指定校との連携(生徒の交流、発表の交換など)
  第4年次        前年度までの評価を受けた後の見直しを反映した学校設定科目の実施
                  卒業1生への追跡調査
                  すべての教科が ICT 活用授業、ルーブリック評価を適時に取り入れた授業を実施
  第5年次        SSH 指定第一期の最終年としての総括
                  卒業2生への追跡調査
                  ICT 活用授業、ルーブリック評価を適時に取り入れた授業の拡充
 ○教育課程上の特例等特記すべき事項
   設置                                                                                     協働して問題
                      科目名           課題設定力   情報活用力    言語能力   論理的思考力
   学年                                                                                     解決する力
    1       SSBasicI                     〇           〇                                       〇
             SSBasicII                                              〇           〇
    2       SS         情報                           〇
             希望I      課題研究          〇           〇           〇           〇             〇
    3       SS 希望II(次年度開講)                   〇           〇           〇
  13        Scuola                       〇                                                    〇
   学校設定教科「SS 希望」に、学校設定科目「SSBasicI」「SSBasicII」「SS 希望I」「SS 希望
 II」を開設した。理科に「Scuola」を開設し、新たな価値を創造できる人材に求められる5つの力
 (課題設定力、情報活用能力、言語能力、論理的思考力、協働して課題解決する能力 )を育成
 する。
 ○令和元年度の教育課程の内容
 ・学校設定教科「SS 希望」
   ・学校設定科目「SSBasicI」               単位数:1      履修形態:1年必修通年
   ・学校設定科目「SSBasicII」              単位数:1      履修形態:2年必修通年
   ・学校設定科目「SS 希望I」               単位数:2      履修形態:2年必修通年
 ・教科「理科」
   ・学校設定科目「Scuola キャンプ」単位数:1              履修形態:1年選択短期集中
   ・学校設定科目「Scuola セミナー」単位数:1              履修形態:1年選択短期集中
 ○具体的な研究事項・活動内容
 1.教科融合型の学校設定教科「SS 希望」の設置
 (1)学校設定教科「SS 希望」学校設定科目「SS BasicI」
   主に課題設定力、情報活用能力、協働して課題解決する能力の育成を目指して開講した。1学期
 にデータ入手、専用ソフトでの表作成やグラフ化を扱い、2学期に外部講師を迎えて環境にかかわ
 る「ミニ課題研究」を実施、3学期に、2年生でおこなう課題研究の研究課題を設定した。この一
 連の流れは昨年度と大きく変わらないが、「ミニ課題研究」の課題をより具体的に与えてもらうよ
 うに講師に依頼しておこなった。また、情報活用に関わる内容では、クラウドで情報共有するため
 のスキルアップを目指した。
 (2) 学校設定教科「SS 希望」学校設定科目「SSBasicII」
   主に言語能力、論理的思考力の育成を目指して開講した。はじめに日本語文を読み手が変わって
 も同じように伝わる客観性をもたせて作る練習、次に英文の構成を確認しながら、日本文に正確さ
 を加える練習をおこなった。10 月から SFC フォーラムの論理コミュニケーションを取り入れた。
 (3) 学校設定教科「SS 希望」学校設定科目「SS 希望I」
   課題設定力、情報活用能力、言語能力、論理的思考力、協働して課題解決する能力の5つを総合
 的に育成することを目標に2年生に開講した。2単位のうち1単位は情報科教員の TT による情報
 活用の授業であり、もう1単位は学年同時に行う課題研究である。課題研究ではクラウド上の情報
 共有をおこない、外部支援者とも意見交換できる環境を整えた。
 (4)学校設定科目「Scuola キャンプ」「Scuola セミナー」
   主に課題設定力、協働して課題解決する能力の育成を目指して開講した。「Scuola キャンプ」は
 昨年度と同じ東京海洋大学に支援を依頼した。「Scuola セミナー」は事前、事後の指導を含めた5
 時間を1回分とし、前年度より1回多い年間8回実施した。
 2.大学や研究機関などの外部資源を活用した研究の充実
 (1)横浜市地球温暖化防止対策推進協議会
   前年度に引き続き「SSBasicI」で2学期におこなった「ミニ課題研究」を通じて連携を進めた。
 同協議会メンバーからの問題と課題の提示を受け、2か月後に生徒からの提言を発表した。講師に
 は、前年度の反省を伝え、特に提示する課題にはより具体性を求めた。また、同協議会主催の「大
 学・企業課題解決マッチング会」に、4つの班が参加しポスターを使った発表を行った。
 (2)大学
 「Scuola セミナー」では、実践女子大学に講師派遣を依頼した。
 「Scuola キャンプ」では、東京海洋大学水圏科学フィー ルド教育研究センター館山ステーション
 に指導を受けた。前年度以上に実習内容を充実させるため、実施時期を含めた改善を試みた。
 「Scuola セミナー」では、実践女子大学に講師派遣を依頼した。
 「SS 希望I」では、横浜国立大学から TA(教授1名、大学院生8名)の派遣をうけた。これは、
 前年度の第2回運営指導委員会で、「運営指導委員も SSH 事業運営に、より直接的に関与すべき」
 という提案があったことから実現に至った。今年度は TA 派遣のシステムが整った横浜国立大学に
 支援をお願いした。また、横浜市立大学からは、生徒研究発表会に質問者として学生3名の参加を
 得た。
  「SSBasicI」の担当者(1学年担任及び情報科)その他希望者を対象に、“課題研究”特に課題
 設定時の指導についての研修会を実施し、その際の講師派遣を横浜国立大学に依頼した。
    また、日本化学会主催の「化学グランプリ」一次選考向け講習会7月に実施し、横浜国立大学
 から講師を派遣していただいた。
 (3)企業
   昨年度は、一般財団法人日本視聴覚教育協会(事務局は全国 ICT 教育首長協議会内)との連携
 のなかで、 同協議会の事業である「Microsoft Education ステップモデル校プロジェクト」(全国9
 校)の協力企業である「日本マイクロソフト株式会社」及び、関連企業数社 にクラウド環境構築
 の支援を受けた。同プロジェクトは昨年度末で終了したが、ここまで取組んだ成果を持続可能な形
 で継続発展させるため、日本マイクロソフト社(今年度、神奈川県教育委員会が「県立高校生学習
 活動コンソーシアム」を締結した)の継続支援を受けている。
   「Scuola セミナー」では、昨年に引き続き、香料の科学をテーマに、高砂香料工業株式会社に講
 師を依頼した。今年度は SFC フォーラムにもドローンをテーマに講師を依頼した。
   「SS BasicII」では、今年度から新規に SFC フォーラムには論理コミュニケーションの導入で連
 携し、導入時研修として、生徒向け講演会と職員向け研修の講師を依頼した。
 (4)その他 公的機関等
 「Scuola セミナー」では、神奈川県立青少年センター、神奈川県立生命の星・地球博物館、海洋技
 術安全研究所、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に講師を依頼した。また、「新しい評価方法」に
 ついての県指定研究校である 神奈川県立光陵高等学校には学習評価に関する職員研修会の講師を
 依頼した。
 3.すべての教科・科目における主体的・協働的な学習の実践による論理的思考力の育成
 (1)各種研修会の実施
   昨年度、ICT 活用を進めるため「Teams 活用」の入門編として研修会を2回実施した。今年度は、
 実際の授業での活用を進めるため、「クラウドを使った共同編集」を中心に ICT 活用研修会を実
 施した。また、これに先駆けて、前年度に取組んだ成果を新着任者や県内の受講希望者向けに伝達
 する研修会も実施した。ともに、講師は日本マイクロソフト株式会社に依頼した。また、ルーブリ
 ック評価研修会を、県立光陵高校に講師を依頼して実施した。昨年度は、ルーブリックの作り方や、
 評価の心得を研修した。今年度は昨年度に実際に本校で使用したルーブリックを題材に、よりよい
 ルーブリックを作る方法について協議中心の研修を実施した。さらに。今年度は論理コミュケーシ
 ョンを「SS BasicII」に導入するにあたり、それに先駆けて職員向け研修をおこなった。
 (2)ルーブリック利用の呼びかけと ICT 活用
   ルーブリックに関して、SSH の学校設定科目だけでなく、普通教科の授業でも利用を呼びかけた。
 学校全体の授業改善の目標の1つにルーブリックの利用をあげた。また、ICT の活用が促進される
 ように AV 機器の整備等を実施した。
 (3)先進校視察の促進
   SSH 先進校の状況に触れ、生徒課題研究のレベルの高さに触れることと、指導の様子を実感する
 ことを目的に先進校視察を呼びかけた。可能であれば普通教科の授業も見学することとし、指導力
 向上を目指した。昨年度は2名が1校へ訪問したのみだったが、今年度は延べ 11 名が9校へ訪問
 した。視察内容は SSH 推進室や学年会で共有した。
  5   研究開発の成果と課題
 ○研究成果の普及について
   「ICT 活用研修」を2回実施したうち、今年度本校に着任した教員を対象とした1回目で他校か
 らの受講者も受け入れた。本校は神奈川県が推進する BYOD 事業の試行校であったため、県立学
 校 29 校から 68 名(本校職員 18 名含む)の参加を得た。
   1月 31 日に実施した生徒研究成果発表会(「SS 希望I」での課題研究発表会)を県立高校、近
 隣中学校に広報し、公開した。また、県が推進する「探究的学習発表会」を同時開催した。本校生
 徒の発表会場の一部を使って他校の生徒 54 名(6校 12 班)がポスター発表を行うとともに、互い
 の発表を見学した。さらに3月に行われる神奈川県教育委員会主催の「かながわ探究フォーラム」
 にも本校から2つの研究グループが参加し、県内の他の高等学校と交流する予定である。
   記念祭(文化祭、毎年6月実施)で、SSH 展示室を設け、ポスターやスライドにまとめた昨年度
 の活動状況を展示した。毎年実施してきた地域貢献活動での小学生との交流で SSH 成果を取り入
 れる考えがあったが、対象の小学校低学年向けの内容が開発できなかったため、例年通りの取組み
 になった。次年度以降に開発を進めたい。
 ○実施による成果とその評価
 1.教科融合型の学校設定教科「SS 希望」の設置
 (1)「SSBasicI」
   昨年度と今年度で年間の指導計画に大きく変更したことはなかったが、現2年生が ID やパスワ
 ードの管理に戸惑っている状況から、1学期の情報に関わる分野で、こうした点の理解を深めるよ
 うに指導をした。また、昨年度の1学期に環境が整っていなかったクラウドの仕様についても扱う
 ことができた。2学期に実施した、地球温暖化対策に関する「ミニ課題研究」は、昨年度より期間
 を長くとり、クラウドを活用して共同作業の効率を上げたため、より充実したものとなった。
 (2)「Scuola」
   「Scuola キャンプ」では、入学前にこの科目を知って特に期待をもっていたという生徒もあり、
 昨年にも増して関心意欲の高い生徒が集まった。昨年度はポスター掲示でおこなったが、今年度は
 1学年全体に向けてポスターを使った口頭発表をおこなった。「Scuola セミナー」では、昨年度に
 実施状況から、より関心意欲を喚起できる内容を求め、講師と綿密に事前打ち合わせをした。開催
 をより生徒が参加しやすい時期に設定できたので、昨年度より多くの参加者を得た。
 (3)「SS BasicII」
   今年度新規に開講した。正確に内容を伝えられる日本語の単文をつくる授業、日本語より内容を
 正確に伝えられるといわれる英語から日本語を見直す授業をおこなった。10 月から論理コミュニ
 ケーションを導入したが、その成果を論じるにはもう少し時間が必要である。
 (4)「SS 希望I」
   今年度新規に開講した。本校は神奈川県から理数教育推進校に指定されていたことから、昨年度
 まで「総合的な学習の時間」で課題研究を実施しており、そこでの課題を活用して研究開発した。。
 今年度は、全 76 グループを 10 の教室に分散させ、1つの教室に2名の指導担当教員を配した。昨
 年度までと異なり、「SSBasicI」を1年生で履修し、指導担当教諭も増加した中での指導となっ
 た。さらに、一部(12 グループ)ではあるが希望したグループに横浜国立大学から TA をむかえて
 指導を受けることができた。前年度までより恵まれた条件によって、全体としては生徒の研究への
 取組みは向上したといえる。
 2.大学や研究機関などの外部資源を活用した研究の充実
   すべての実証を通じて昨年度より多い、4つの公共機関、5つの大学、1つの企業、1つの県立
 高等学校、1つの NPO 法人と連携関係を構築した。生徒の取組み、連携先からの評価はおおむね
 良好である。高校3年間のうちにその成果が十分発揮されるとは限らないが、5つの力の育成に欠
 くことのできない取組みになっている。
 3.すべての教科・科目における主体的・協働的な学習の実践による論理的思考力の育成
   昨年度から今年度にかけて実施した3回の「ICT 活用研修」2回の「ルーブリック評価研修」、
 今年度実施した「論理コミュニケーション研修」によって、SSH の学校設定科目以外でも活用する
 動きが起きている。特にルーブリックの活用は、生徒に目標をしめすことで意欲を引き出すことが
 できる点で本校の生徒に適した評価方法といえる。
 ○実施上の課題と今後の取組
 1.教科融合型の学校設定教科「SS 希望」の設置
 (1)「SSBasicI」
   2学期に実施している地球温暖化対策に関する“ミニ課題研究”は、1学期に学んだ ICT のス
 キルを情報収集、グラフ化、ポスター作り、発表までの過程で実践する場として定着している。一
 方で、この“ミニ課題研究”は、仮説を立て、実証のためにデータを収集し、分析するという研究
 として成り立っているとはいいがたい。1年生で初めて取り組む課題としてどこまで求めるべきか
 担当者間で議論が必要な時期である。また、要求するレベルを正確に示すことができるルーブリッ
 クの改善も必要である。
 (2)「Scuola」
   「Scuola キャンプ」「Scuola セミナー」のどちらも意識の高い生徒が参加している、講師の熱意
 もあり充実した内容になっている。講師に対して進路上の質問もあり、関心意欲の喚起として意義
 のある科目になっている。ただ、「SS 希望I」の研究課題設定に結びついてはいない。生徒の研
 究課題にならなくても成果はあると判断しているが、事前事後の指導の中で課題設定に結びつける
 ための指導が必要である。
 (3)「SSBasicII」
   2学期に実施した“英語から日本語を見直す授業”については、“英語にならって伝わりやすい
 日本語を作る”といった趣旨が生徒に十分伝わらなかった。そのため、単なる英語の授業ととらえ
 た生徒が多くなった。1学期の日本文作成の内容と、2学期の英語から学ぶ内容をどうリンクさせ
 るかの改善策を練らなければならない。
 (4)「SS 希望I」
   教室間やグループ間、さらにグループ内の個人間での取組みをみると、明らかな差があった。原
 因は様々あげることができ、指導者の違いだけでなく、生徒の意欲の違い、使用する機器(特に
 ICT 関係)の不足などが考えられるが、分析して次年度以降の課題として克服していく。将来的に
 はグループで実施している課題研究を個人研究にする必要もでてくると考えられる。その時は、教
 員配置やインターネット環境の充実といった課題も生じる。
   さらに、「SS 希望I」に限らず、SSH の学校設定科目ではルーブリックで評価することが多い
 が、評価の公平性が保てない、評価の差ができにくい、といった戸惑いの声が多く上がっている。
 従前どおりの“ペーパーテスト→評価”という成績の出し方に対し、ルーブリックを教師自身が十
 分読み込んで理解すること、生徒が目標にむけて努力すれば、全員が好成績になることもある、と
 いった点が認識されるまでにはまだ時間がかかると思われる。
 2.大学や研究機関などの外部資源を活用した研究の充実
   教員に対して実施した研修や授業への支援では、教員のスキルアップがなされた。新たなスキル
 をすぐに活用しようとする教員によって、今までにない授業が始まっている。一方で生徒に対して
 実施した講座では、関心意欲を持たせることはできたが、すぐにその成果を課題研究に活かそうと
 することがほとんどない。生徒の興味関心が即座に形に現れなくても、関心のタネをまくことがで
 きれば成果といえる。しかし、多少なりとも課題研究に直結することがあってよいだろう。課題研
 究の題材にちょうどいい“お手頃なテーマ”を設定する予定はないが、次年度からも、テーマの設
 定、講師との打ち合わせ、事前事後の指導で課題研究に結びつける動機付けをすることなどが必要
 である。
 3.すべての教科・科目における主体的・協働的な学習の実践による論理的思考力の育成
  “大学受験のための実力を養うこと”と“主体的・協働的な学習”が全く相いれない要素である
 と考える教員が一定数存在している。“主体的・協働的な学習”を徹底することで“大学受験のた
 めの実力を養うこと”が必ず達成できる、とは信じられないという考えは強く残っている。しかし、
 両者は全く相反して存在するわけではなく、相補的に利用しながら生徒の学力向上に資するもので
 あろう。学力は受験が終われば意味を失うものではないはずである。ICT やルーブリックを“使え
 ばいい”のではなく、どこでどう使えば有効か、を学校全体が模索する時期だと認識している。こ
 の点を早い時期に全職員で共有することが必要である。
   また、1(4)「SS 希望I」の項にも書いた通り、“評価”の面でルーブリック利用に疑問や不
 安をもつ教員が多く存在することが明らかになった。新しい評価方法をめぐって、意識改革の必要
 性を感じながらも疑問や不安が多い状況である。ルーブリックで何を目標として生徒に提示すか
 と、その到達度を“評価”することで生徒に何を伝えるかについて整理する必要が出てきた。SSH
 の研究開発を通じて、本校では変化を受け止めるだけでなく推進役になることが必要と考える。
   推進を担当するグループでは、正確な情報と校内の先行事例を丁寧に広報して普及に努めること
 はもちろんだが、負担感を軽減し、研究開発に積極的にかかわれるように環境を整備することが必
 要であると考える。
 〇「国際化」に向けたプログラムの検討
   6月に来校した姉妹校(アメリカ合衆国サンフランシスコ市セイクリッドハートカセドラル高
 校)との交流は、相手校の訪問趣旨と合致しなかったため今年度は実施できなかった。国際化に向
 けた新たなプログラムを策定するために、職員有志で国際化プログラム開発チームを募り、検討を
 始めた。
 別紙様式21
                                  神奈川県立希望ケ丘高等学校       指定第 1 期目   指定期間
                                                                                    3004
 
 
                令和元年度スーパーサイエンスハイスクール研究開発の成果と課題
 
 
  1     研究開発の成果
 (1)教科融合型の学校設定教科「SS 希望」の設置
   教科融合型の学校設定教科「SS 希望」を前年度から学年の進行に合わせて開講した。これらの
 学校設定科目によって、本校が生徒に育成したい5つの力を育成する。学校設定科目の成果を述べ
 る。
 「SSBasicI」:昨年度から1年生に開講した。2学期のミニ課題研究で昨年度の課題を整理して
 講師と共有した上で実施した。また、昨年度は実現しなかった Microsoft Teams(以下 Teams)を活
 用した課題研究の研究班づくりをすすめた。
 「SSBasicII」:新たに2年生に開講した。国語科、英語科がそれぞれ教材を自主作成し、授業も
 2教科による TT とした。SSH の研究開発が理科数学科以外の教科によって主体的に実施された意
 義は大きかった。また、昨年度から検討してきた SFC フォーラムの論理コミュニケーションを導
 入した。
 「SS 希望I」:新たに2年生に開講した。2単位のうち、1単位で情報活用を学び、もう1単位
 で課題研究に取り組んだ。課題研究では、希望した研究班が横浜国立大学の大学院生による TA に
 よる支援を受ける事ができた。授業時間外となる放課後に指導を受けることを希望した意欲ある生
 徒と、TA のきめ細かい指導により研究を深める事ができた。また、このことは周囲の生徒にも良
 い刺激を与えた。また、ICT 活用も効果をあげる事ができた。具体的には、生徒、外部指導者、担
 当教諭が Teams を使って情報共有したり、最終発表のポスター複数人での共同編集で実施したり
 した。
   学校設定教科「SS 希望」の内容を補完し、より充実させる学校設定科目「Scuola キャンプ」
                                                                                     「Scuola
 セミナー」を理科の中に昨年度から開講した。今年度は、8講座を実施し、昨年度より多い 100
 人を超える生徒が参加した。
 ○課題設定力の育成
   課題設定力を持つには、周囲の現象から疑問や問題、つまり“課題”そのものを見出す力を持つ
 ことが必要である。課題を見つけるのは自然現象に限定する必要はなく、社会や自己の心の中にあ
 ってもよい。本校ではこの考えに立って、生徒には広い分野に触れる機会を与えるつもりである。
 その取組みの一つとして、1年生の学校設定科目「SSBasicI」のミニ課題研究で、横浜市地球温
 暖化対策推進協議会と連携していることがある。横浜市は SDGS 未来都市・横浜市をかかげ、2050
 年までの温室効果ガス実質排出ゼロ(脱炭素化)の実現をゴールとしている。同協議会は、この目
 標を達成するための事業を展開する官民公にわたる団体の集まりである。温暖化対策の必要性、対
 策、対策を推進するにあたっての課題を講義していただき、生徒は高校生の立場から提言をまとめ
 る。市内の出身者が多いため、横浜市の方針は初めて聞く話題ではないが、現実に起きている課題
 を題材に取組むことでさらに関心を強くすることを目標とした。
   また、「Scuola キャンプ」「Scuola セミナー」では、外部講師の指導の下、実験操作、作業を体
 験したり、研究現場の見学をさせた。希望者による参加のため、扱う分野に対する意識の高い生徒
 が集まり、各講師と生徒との距離が近く、積極的で活気にあふれた高密度な講習となった。
 ○情報活用力の育成
   自主自律を校訓としている本校では、伝統的に部活動、生徒会行事が生徒主体で進められる。教
 員の関与は限定的である。多くの生徒が年間を通して行事の準備に関わり、しかも部活動加入率は
 ほぼ 100%である。一方で課題研究を週1時間の授業だけで進めることは難しく、放課後や休日を
 利用せざるを得ないことが予測できた。この“多忙”な生徒全員が、グループで課題研究に取り組
 むことの困難を克服する手段として、申請段階で ICT 活用を掲げた。
   昨年度は、全国 ICT 教育首長協議会との連携した。具体的には同協議会の事業である「Microsoft
 Education ステップモデル校プロジェクト」の協力企業である「日本マイクロソフト株式会社」及
 び関連企業数社にクラウド環境構築や職員研修の支援を受けた。「Microsoft Education ステップモ
 デル校プロジェクト」は昨年度で契約が終了したが、今年度は日本マイクロソフト株式会社と神奈
 川県教育委員会が「県立高校生学習活動コンソーシアム」を締結したことにより、引き続き職員研
 修などで支援を受けることができた。
   「SSBasicI」では、Microsoft Excel を中心にした簡単な機能を扱うほかに、ログイン方法や Teams
 の使い方とを学ぶ。ミニ課題研究のポスター作製では共同編集機能を使って効率的に作業をおこな
 った。また、2年生にむけての課題設定で Teams を使って、クラスをこえた班編成を可能にした。
   「SS 希望I」では、授業ごとの活動内容を交代して研究ノートに記入させた。担当になった生
 徒はノートを写真に撮って Teams にアップした。このことで、毎回の活動内容は研究班の全員と、
 指導担当の教諭とも共有することができた。さらにチームには、外部指導者もアクセスできるよう
 になっており、アドバイスを受けることができた。
   一般の教科においても、教材動画をインターネットで閲覧するといった使い方から、Microsoft
 Forms(以下 Forms)を使った生徒の相互評価、教員が用意した資料の配布、小テスト、自己採点
 などで ICT を活用する場面が増えている。特に、授業の中で行う小テスト、相互評価に Forms を
 使うことは、結果の即時提示が可能なことから生徒の主体的な取組みを励起する効果が高い。
   また、昨年度よりベネッセコーポレーションのクラウドサービス「Classi」(以下 Classi)を導
 入しており、年間を通じてアンケートへの回答やポートフォリオの作成をインターネット経由で実
 施した。
 ○言語能力の育成
   「SSBasicII」では、はじめに、受け手の解釈によって意味の違いがうまれない文章を作る力の
 育成をめざし、次に論理的な組み立てをもった文章の作成を SFC フォーラムの論理コミュケーシ
 ョンの導入によって育成する。効果は今後を見なければわからないが、日本語で正確に伝えるため
 の作文や論理コミュケーションには生徒も高い関心意欲を示したが、英文から日本文を再確認する
 ことの意図が生徒には十分理解されなかった点があった。
   この科目の目的を達成するには、説明的な文章を書く場面のすべてで科目の内容を意識させ、指
 導に活かして繰り返し学習させる必要がある。
 〇論理的思考力の育成
   「SSBasicI」のミニ課題研究、「SS 希望I」の課題研究で課題設定、仮説、実証、考察と一連
 の流れを体験するとともに、論理コミュニケーションでも根拠ある意見を積み上げて説得力ある説
 明をする方法を身に付けさせる。成果のほどは今後の研究発表やレポートまたは論文の中で発揮さ
 れるので、現在のところに評価する状況には至っていない。
 〇協働して問題解決にあたる力
   SSH に関わる学校設定科目ではグループ作業や相互評価が頻繁に行われている。また、課題研究
 の発表では質問を重視しており、評価の対象とした。日頃同じ課題に向き合う関係でなく、他の課
 題に取り組むグループに異なった視点で質問することが研究の深化に欠かせない要素であること
 を体験させている。
   もともと、生徒の主体的な活動を最大限に保証してきた本校では、生活一般で協働することが多
 くあった。しかし、相手を好意的に評価して終わることが多く、批判的に見ることや改善すべき点
 を指摘することはできない。こうした力が備わることで効果を認めることができる。仲間内でほめ
 あうのではなく、客観的に判断して意見を述べあうことができるように指導をする必要がある。
 (2)大学や研究機関などの外部資源を活用した研究の充実
   「新たな価値の創造と科学技術及び社会の発展に貢献する人材の育成」という目標のために、地
 域や大学、企業、研究機関等の外部資源との連携をすすめた。次に、連携先別に実施した内容を要
 約する。
 〇横浜市地球温暖化対策推進協議会
 「SSBasicI」への講師依頼を通じ横浜市と関係する企業、民間団体の SDGS への取組みに触れる
 ことができた。外部講師への提言を最終目標にしたことで生徒の取組みも熱心になった。また、「大
 学・業課題解決マッチング会」に参加することで、大学生の発表に刺激を受けることができた。「大
 学・業課題解決マッチング会」への参加グループは、昨年度は教員の推薦で決定したが、今年度は
 希望者を募ったことでより意欲的な生徒の参加を得ることができた。
 〇東京海洋大学水圏科学フィールド教育研究センター館山ステーション
   「Scuola キャンプ」で須之部友基教授と同大学の大学院生に指導を受けた。今年度はこの科目を
 志望理由の1つにあげる生徒もあった。
 〇「Scuola セミナー」での連携
   「Scuola セミナー」では、広く地域や社会の状況の中から課題を発見できるように、幅広い分野
 に講師を依頼した。具体的には、神奈川県立青少年センター、海上技術安全研究所、神奈川県立生
 命の星・地球博物館、高砂香料工業株式会社、実践女子大学、日本宇宙航空研究開発機構(JAXA)、
 慶応大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の各団体である。参加者は昨年度を上回り、どの講座も意欲
 的に学ぶ生徒が増えた。
 〇横浜国立大学
   前年度まで一部の研究班が同大学を訪問して支援を受けてきた。これは、県の「理数教育推進校」
 としての研究指定事業の中で実施してきたことである。今年度は同大学の TA 派遣事業によって、
 大学院生7名、教授1名が本校にきていただくことができ、12 研究班(63 名)が研究支援を受け
 た。支援を受けたことによる成果はまだ十分に検証できていないが、研究内容やポスター発表の質
 からみて、成果は上がっていると考えられる。また、周辺の研究班も刺激を受けることで意欲が増
 したと思われる。また、同大学の教授であり横浜市地球温暖化対策推進協議会会長である松本哉教
 授には、化学グランプリ対策講座の講師を依頼した。1年生が参加して充実した時間を過ごした。
 〇日本マイクロソフト株式会社を中心とした企業グループ
   「SS 希望I」では、Teams を活用することで、研究班のメンバー、研究指導担当教諭、SSH 推
 進室のメンバーが、情報を共有し必要な意見やアドバイスを交わすことができた。さらに、横浜国
 立大学からの TA 派遣支援を受けていた研究班では、TA もチームに加わり、進行上のアドバイス
 を受けることもできた。特に発表に向けてポスターを作製する際は、1つのポスターをクラウド上
 で編集した。放課後に学校で更新する生徒もいれば、部活などが終わったあと、家庭から更新する
 生徒もあり、企画段階で思い描いたことが一部実現している。
 〇神奈川県立光陵高等学校
   ルーブリック評価の教員研修の講師を依頼した。前年度の研修は、ルーブリック評価の進め方を
 基礎から講習していただいた。教員の多くがある程度知っているが、正確に活用できていない状況
 の改善を図った。今年度は、昨年度実施したルーブリックのなかで、評価者による差異が大きくな
 ってしまった「SSBasicI」のルーブリックを題材に協議を含めた講習を依頼した。実践的な講習
 となり成果があった。また、県立高校間での連携を深めることができた。
 
 
 (3)主体的・協働的な学習の実践による論理的思考力の育成
   すべての教科において、主体的・協働的な学習活動を実践し、課題研究を中心とした体系化した
 学びに取り組むことにより、論理的思考力を育成することを目指した。1年生で行った「ミニ課題
 研究」では、主体性や協働性を引き出すために、情報科と各担任による TT での授業が成果を上
 げた。また、ルーブリックを提示したことで、授業の目標、ゴールとするところを生徒自身が見定
 めることができ、主体的・協働的な学習の実践を促すことができた。
   研究課題の設定、論理的な思考の育成については、各教科の授業の中でも不断に行われるべきだ
 が、今年度に関しては、教員の意識がまだ高まっていないのが現状であった。しかし、論理的思考
 力を育成する方法を確立し、充実させるため、 ICT 活用、ルーブリック評価の導入を狙って研修
 会を実施したことにより、意欲的な教員が増加したことは一定の成果であった。
   昨年度までは「生徒による授業評価」や教科による「授業改善、研究授業」を実施してきた。今
 年度はそれに合わせて、通常の授業の中でも「5つの力の育成」「ICT 活用」「ルーブリック活用」
 を求めた。次の表はそれらを特に意識しておこなった授業の実践例である。
    教科                         学年   意識した項目   内容
    政治経済                       3      112         意見を整理して発表
    体育                           1    1135          練習メニュー作り、試合中の戦略
    政治経済                       3      123         死刑の是非をテーマとした小論文
    物理基礎                       1      124         夏課題     開放された実験室で各自実験を行う
    政治経済                       3    1245          社会問題をテーマとしたディベート
    物理基礎                       1       13         作問(夏休み課題)
    地学基礎                       2    1345          問いから考察の流れを実験とレポートでおさえる
    英語表現I                      1      145         意見文の作成→ディベート
    コミュニケーション英語I        1       15         ディクトグロス(4 人一組)
    化学                           2       15         芳香族化合物の分離     ジグソー法
    物理基礎                       1       15         3力のつり合い(グループワーク)
    現代文 B                       2      152        文学散歩、活動中に Teams へ状況をアップさせる
    数学I                          1         2         Forms を使った解答配布、自己採点、小テスト
    数学 B                         2         2         Forms を使った解答配布、自己採点、小テスト
    英語表現II                     3         2         GoogleForm を使って解答例を投影、添削をする
    コミュニケーション英語I        1         2         アンケート、グラフ化してクラスで共有
    化学                           2         2         化学実験の動画を各自のスマートフォンで閲覧
    保健                           1         2         心身症、がん治療についての調べ学習
    政治経済                       3         2         Forms を使って生徒発表、ディベートの相互評価
    地学基礎                       2         2         Taems を使った実験結果の共有、議論
    家庭基礎                      1         2        課題研究(ホームプロジェクト)
    家庭探求・学校設定科目        2         2        課題研究(ホームプロジェクト)
    コミュニケーション英語I        1         3         音読テスト
    英語表現I                      1         3         Interview Test
    現代文 B                       2         3         スピーチ
    物理、      物理基礎          全         3         実験レポート
    物理                           2         3         夏課題テスト
    政治経済                       3         3         生徒発表、小論文、グループワーク
    地学基礎                       2         3         すべての実験レポート、作業課題
    物理基礎                       1         3         実験の評価
    物理                           3         3         実験の評価
        意識した項目          1:1課題設定力     2情報活用力     3言語能力      4論理的思考力
                                 5協働して問題解決する力          2:ICT 活用        3:ルーブリック
   SSH の研究開発がなかったとしても、「主体的対話的で深い学び」が求められている。本校では
 そのための有利な点(研究開発の目標として掲げた共通の視点、他に比べて豊富な機器)を十分に
 活用して授業改善を加速させなければならない。
 〇国際化の視点
   今年度まで、「国際化」のために特に企画した取組みがなかったが、課題設定のためには、広い
 視野で身の回りの問題を発見する力が必要であるといった視点からも、国際化のためのプログラム
 を作るべきと考えた。初めに、SSH 推進室で本校の考える「国際化」の方針を次のように決めた。
 
 
      国際社会がかかえる、貧困、人権、環境、紛争などの問題 *に向き合う機会を与える。
      差別、不公平、他者への不寛容をみつめ、自分の問題として考える機会を与える。
      他者と話し合うための力として「語学」学習の動機づけとする。
                            (*すべてではなく、諸問題の中からいくつかをあつかう)
 
 
 
   この方針を公表したうえで、開発に携わる有志を募集したところ、地歴1名、公民1名、英語1
 名、理科1名が応募し、ここに SSH 推進室のメンバー1名を加えて国際化プログラム開発チーム
 を発足させた。次年度からの実施に向けて検討を進めている。
 〇先進校視察
   研究開発を進めるうえで、目標を具体的にイメージできることが必要であるが、全国生徒研究発
 表会への引率経験を除いて昨年度まで先進校の状況を見聞することが少なかった(昨年度は1校2
 名のみ)。そこで、先進校視察を積極的に実施した。生徒の課題研究のレベルに触れるだけでなく、
 通常の授業も可能な限り見学した。視察内容は SSH 推進室や学年会で共有した。
  2   研究開発の課題
 (1)教科融合型の学校設定教科「SS 希望」の設置
 ○課題設定力の育成
   「SSBasicI」「SS 希望I」及び「Scuola キャンプ」「Scuola セミナー」を中心に課題設定力の
 育成をめざしている。今年度の2年生「SS 希望I」における研究課題には、昨年度1年生の学校
 設定科目「SSBasicI」「Scuola キャンプ」「Scuola セミナー」で扱ったテーマが全く含まれない。
 この課題設定力は、生徒が将来発揮することを期待するもので、2年生の課題研究に直結する必要
 はない。しかし、横浜市の SDGS を達成するための取組みにふれ、提言をまとめた経験を、次年度
 の課題研究に活用する生徒が一人もいないことは検討する余地のある現象といえる。「Scuola キャ
 ンプ」「Scuola セミナー」のテーマは、高校生が取組むに困難なものが多いが、講座をうけて高校
 生に取組めそうな課題へと落とし込むことは可能である。次年度からは、事後に新しい知識を高校
 生の研究課題へ落とし込む課題を課すなどして課題設定力の育成につなげる必要がある。
 ○情報活用力の育成
   ID やパスワードの管理、データの保存方法などで手間取る生徒が多数あった。将来それが当た
 り前の社会に生きることになるので、スキルとして身に付けさせなければならない。利用になれた
 生徒は、情報共有、意見交換、協同編集など、便利なツールとして次々とスキルを磨いている。
   一番大きな課題は、不足する機材と脆弱なインターネット回線である。本県の県立普通科高校と
 しては、多くのパソコンが配備されているが、70 以上ある研究班の1班に1台の割合である。ク
 ラウド環境下では、複数の班員が同時に同じファイルを編集することが可能だが、実際には放課後
 等の時間を利用しないと共同編集はできない。現在は、個人所有のスマートフォンを併用している
 が共同編集にはほど遠い状況である。また、40 人でおこなう普通教科の授業であれば、1人1台
 のパソコンを使った作業が可能だが、ネット回線が不安定になり、通信がストップする事態がたび
 たび発生した。外部に接続する部分で容量の不足があるためである。県に協力を求め改善していき
 たい。
   本校では、昨年度より Classi を導入しており、年間を通じてアンケートへの回答やポートフォリ
 オの作成をインターネット経由で実施している。さらに県から配備されたクロームブックがある。
 生徒はマイクロソフト、ベネッセ、グーグルの3種の異なるフォーマットでクラウドにアクセスし
 なくてはならず、整理が必要である。
 ○言語能力の育成
   「SSBasicII」では、英語の文法、文型から日本語の特徴を再確認し、客観性のある文の作り方
 を研究する部分で生徒には意図が十分伝わらなかった。また、論理コミュニケーションの全日程を
 2年生のうちに終わることが困難で、第3回の検定を次年度に実施することになった。次年度は計
 画段階で改善する。また、論理コミュニケーション導入時の職員研修で、複数の職員から高校生活
 のもっと早い時期に導入できないかという意見が出ている。全体の教育課程に関わる問題であり、
 令和4年度の新教育課程作成にあわせて検討する必要がある。
 〇論理的思考力の育成
   論理的思考を直接的に育成するプログラムとしては、論理コミュケーションがあるが、その成果
 はまだ評価できない。その他には論理的思考を何度も繰り返し体験させる必要がある。すべての教
 科で実行されていることだが、生徒は目の前にある問題の解答を得ることに気を取られがちであ
 る。学校設定教科「SS 希望」以外の教科科目でも取組みが進むように方策を考える。
 〇協働して問題解決にあたる力
   課題研究については、現在5人程度の班で実施している。グループによる協働体制ともいえるが、
 熱心で優秀な1人がいれば他はついていくだけでよい、といった状態も見受けられる。課題研究を
 個人研究とする案も出ている。研究を個人でおこなったとしても、相互評価する時間を確保するこ
 とでより深い協働は可能である。実際は教員の数が足りないので個人研究には踏み切れない。少な
 くともあと数年はグループ研究の中で協働を進める方策を考えていく。
 
 
 (2)大学や研究機関などの外部資源を活用した研究の充実
 〇横浜市地球温暖化対策推進協議会
   同協議会との連携を提案されたのは、会長の松本真哉横浜国大教授である。この時のコンセプト
 は、問題の深刻さを知り、課題解決にあたることの厳しさを高校生に知らせるということだった。
 これまで2年間の連携から、地球温暖化問題の解決に取り組む社会人からの講話によって、問題意
 識を持たせることができた。しかし、厳しさを知らせる部分は不十分である。今まで生徒の提言発
 表は通常授業の1時間分を使って実施しており、講師から1つ1つの班に十分な時間をとった講評
 をいただくことができなかったことが原因の一つと考えられる。次年度からは、講師の意見を生徒
 にぶつけてもらえる時間を確保することで、単なる提言で終わらないで、行動が喚起されるような
 連携に進化させたい。
 〇東京海洋大学水圏科学フィールド教育研究センター館山ステーション
   「Scuola キャンプ」の2泊3日の実習は充実している。次年度以降は事前事後の指導に変化をも
 たせ、さらに充実した講座にする。
 〇神奈川県立青少年センター他
   「Scuola セミナー」では、昨年度6団体、今年度7団体に講師を依頼した。本校の趣旨が伝わる
 ように昨年度以上に講師との連絡を密にした。次年度以降も依頼先との打ち合わせを綿密に行う。
 実施回数は7回以上とし、状況に合わせ柔軟に設定する。生徒の参加をさらに促すために年間の計
 画を示す必要がある。講座の内容が2年生の研究課題に直結する必要はないが、この科目が参考に
 なるように、テーマの選択や事後指導を工夫して意識付けする。
 〇横浜国立大学
   横浜国立大学のの TA 派遣事業によって、課題研究の向上があった。次年度以降も継続して依頼
 したい。指導にあたった大学院生からは、研究のもっと早い段階から関与したかったという意見が
 あったので、できる限り早く実現させる。TA による指導に立ち会うことは、教員の研究指導力向
 上にも効果があると考えられるので、教員の積極的な参加を促す必要がある。
   今年度は、運営指導委員に Teams を使った遠隔指導に協力いただけることにもなっていたが、
 実施の時期を逸してしまった。生徒への投げかけを早くして、研究支援者を増やしていく必要があ
 る。
 〇日本マイクロソフト株式会社を中心とした 企業グループ
   職員研修(そのうち1回は本校だけでなく、クラウド環境の利用を考える他の高校職員へも公開
 した)や、授業等での実践についてアドバイスをうけた。また、機器のメンテナンスでも支援を受
 けることができた。にもかかわらず、コンピュータに詳しい教員を除いて、一般の教員が授業で ICT
 を活用する例は増えていない。これには、アクセス数が増えるとフリーズしてしまうという状況が
 大きく影響している。施設設備面での課題なので、設置者に善処を求めていく。
 〇神奈川県立光陵高等学校
   すべての教科による主体的・協働的な学習の実践による論理的思考力の育成を実践するために、
 新しい評価方法を取り入れる必要があった。そこで、2年間にわたってルーブリック研修会の講師
 の派遣を神奈川県立光陵高等学校に依頼した。SSH に関わる学校設定科目ではルーブリック評価が
 取り入れられているが、他の教科では積極的に活用するまでには至っていないが、ルーブリックへ
 の理解は深まっている。今後はルーブリックの活用が進むようにさらに研修するか、主体的・協働
 的な学習の実践に向けて新たな研修内容が必要か検討を進める。
 
 
 (3)主体的・協働的な学習の実践による論理的思考力の育成
   5つの力は学校設定教科「SS 希望I」だけで育成するものではなく、学校におけるすべての場
 面で意識して育成に取り組むべき内容であると考えている。ICT 活用やルーブリックだけがその方
 策ではないが、取り組んだ教員たちの手ごたえの共有を促進する。
   一部には、いわゆる“受験指導”と“SSH に関わる事業”が競合する内容である、といった認識
 がある。SSH の研究開発が求めるものがこれからの社会に必要とされるものであり、同時に大学が
 期待する力でもあることへの理解を得ていく必要がある。生徒の主体的で協働的な学びをサポート
 する方法の一つとして、ICT やルーブリックの活用、論理コミュニケーションの導入促進を図る。
 また、すべての教科が課題設定のヒント、論理的思考力を求める内容、研究の手順手法を紹介する
 内容を含むように呼び掛けていく。