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取得日:2024年03月21日[更新]

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 令和5年度    茅ケ崎西浜高等学校第 42 回卒業証書授与式   学校長のことば
 
 日 時         令和6年3月1日(金)10:00
 場 所         本校体育館
 
   春の息吹が感じられるこの佳き日に、PTA代表小林亜衣様、同窓会会長木村
 豊三様、ご来賓の方々、保護者の皆さま方のご臨席の下に、令和5年度神奈川県
 立茅ケ崎西浜高等学校第42回卒業式を挙行できますことは、卒業生はもとよ
 り、本校職員にとりましても大きな喜びとするところでございます。
   ただいま卒業証書を授与しました322名の卒業生の皆さん、ご卒業おめで
 とうございます。皆さんは本校の教育課程を無事終了し、本日、晴れて卒業の日
 を迎えることができました。これは、皆さん一人ひとりが、3年間努力を積み重
 ねてきた結果であることは、言うまでもありません。素晴らしいことです。まず
 は自分を褒めてください。これからの人生に自信を持ってください。
   と同時に、皆さんをこれまで温かく見守り、励まし、支えてくださったご家族
 や先生方のことも思い出してください。感謝の気持ちを忘れず、これからもたゆ
 まぬ努力を続けてくれることを期待しています。
 
   卒業にあたり、皆さんにどんな話をしようかと考えていた矢先、かつて担任を
 した教え子が校長室を訪ねてくれました。会うのは卒業以来です。彼のことを少
 し話したいと思います。「いくつになったの?」と尋ねたら、「今年 30 です」と
 のことでした。それくらい前の教え子です。
   まず、彼がある雑誌に投稿した文章の冒頭をご紹介します。
   「高校を卒業してからもう 10 年が経つ。きっと多くの人にとって、高校時代
 の話はたまにの思い出話として消費される程度に過ぎないだろう。しかし、私に
 とっての高校時代の経験は、単なる思い出話として消費されることを超え、卒業
 した今もなお、参照点としてずっと振り返られ続けてきた。なぜか。それは高校
 時代の経験が、大学や大学院で出会った友だちのそれとは異なるものだったか
 らである。」と始まる文面には母校、仮にA高校とします、A高校から、関西に
 あるB大学に進学し、現在に至る経緯が記されています。
   A高校は決して進学校ではありませんでした。むしろ当時の私たち教師にと
 っては生徒指導が大変な学校だったと言えます。
   当初、希望や期待に胸を膨らませ、彼の高校生活は始まりますが、そこで目に
 する光景に、「こんなはずじゃなかった」と徐々に衝撃を受けます。彼が高校生
 活に思い描いていた多くの期待は、残念なことに、時間とともに崩れていきます。
   とうとう彼はA高校の環境に耐えきれなくなり、一刻も早く抜け出したいと、
 A高校生が全くいないような進路先を目指すことになります。その結果、1 年間
 浪人して、猛勉強の末、B大学に進学しました。ここまでは当時の私も知ってい
 ました。彼の頑張りと難関大学合格1を祝福しました。彼自身も大学で生まれ変わ
 るんだと決意しました。
   ところが、ほとんどのB大学生の経歴は彼とはまるで違うものであり、彼は再
 び大学でも衝撃を受けることになります。A高校から卒業したはずなのに、今度
 は高校コンプレックスに陥ります。
   悩みながら、大学生活を送る中で、彼は教育社会学と出会い、教育や学校の「問
 題」を社会学的なアプローチから観察し明らかにする学問に魅せられ、そこから
 母校について研究してみたいという欲求が湧いてきたというのです。あれほど
 嫌だと思っていたA高校のことを、です。
   彼の文章の結びには、「一刻も早くA高校から距離を取ろうと必死に大学受験
 に逃げ、地元から遠く離れたB大学に進学したことで、物理的・文化的にも高校
 の呪縛から解き放たれたつもりだった。しかし、振り返ってみると、A高校の経
 験から、教育社会学に興味を持ち、母校を研究対象に据えて、気が付けば母校か
 ら離れるどころか、むしろ関心が高まるばかりである。」
 
   当時、高校は嫌だったけれども、高校時代にできた友達は大好きで、今でも数
 人、月に 1 回以上のペースで遊ぶくらい仲が良いと話してくれました。当時の
 先生たちのことも話題にするようで、その友達の一人が「3年の担任にとても感
 謝している。自分が卒業できたのは担任のおかげだ。」と会うたびに話すという
 ので、それを聞いて私も嬉しくなり、必ずそのことを伝えておくと約束しました。
   その先生からは、「嬉しいですね。こういう話はただただ嬉しいです。」と返信
 がありました。その後には「何か感謝されるようなことしたかしら?」と続いて
 いました。そう、生徒に感謝されることを考えて接する教師など一人もいません。
 教師とはそういうものです。
   当時は私も体当たりで担任をしていました。生徒に何とか思いを伝えたいと
 頑張りながら、空振りも多かったように思います。別の友達も私に会いたがって
 ると聞き、そんなことを言う生徒だとは想像できなかったので驚き、また嬉しく
 思いました。
   A高校の卒業生は母校に対し、どんな思いを抱いているんだろう、と一担任と
 して考えたことはありました。正直、よい期待はしていませんでしたし、彼と会
 うまではそれすら忘れていました。しかし、彼から話を聞き、心が揺すぶられま
 した。ちょうど皆さんの卒業式を間近に控え、ここから何か伝えられないかと考
 えた次第です。
   教師にとって、卒業生が頑張っていること、母校を思い出してくれること、ま
 た卒業生同士が仲良くしていることは、ただただ嬉しいのです。ここにいる皆さ
 んが 10 年経った時に西浜高校をどんな風に思い出してくれるのだろうかと、計
 画登校に入る前日に、学年集会で集まっていた皆さんの後姿を、体育館の入口で
 眺めながら考えていました。
   西浜高校で過ごした3年間は、きっとこれからの人生の糧になるはずです。
 
   社会は目まぐるしく変化しています。皆さんが在籍していた、この3年間です
 ら予測のつかないことが次から次へと起こりました。ITやAIなどの技術革
 新、政治不安やテロ、戦争、自然災害、コロナウイルスの流行など、世界はます
 ます速いスピードで変化しています。
   VUCAの時代と言われ、不安定で不確実で複雑で曖昧な、そんな予測困難な
 時代に、皆さんは受け身で対応するのではなく、未来の創り手となることが求め
 られています。大変なことです。
   そんな時代だからこそ、自分の思いを大切に、自分を信じ、周りに流されず信
 念を持って進んでほしいと思います。
   AIをはじめとしたテクノロジーの躍進はある意味素晴らしいことと言えま
 す。仕事の迅速性、正確性、効率性はこれまでと比べものにならないほどです。
 ChatGPT を代表とする生成型AIは世界中に大きな衝撃を与えており、例えば、
 この式辞も、AIを使えば、恐らくほんの何秒間かで美しい文章に仕上がったこ
 とでしょう。ですが、そこには私の想い、卒業する皆さんに私が伝えたいことは
 載せられません。
   AIを活用することはあっても、AIに使われることのないよう、それぞれの
 「私」が主語になる生き方を目指してほしいと思います。
 
   終わりになりましたが、保護者の皆さまにお祝いとお礼を申し上げます。
 お子様のご卒業、誠におめでとうございます。卒業をもっとも喜んでおられます
 のは、長い間いつくしみ育ててこられたご家族の皆さまと拝察いたします。
 また、3年間にわたりまして、本校の教育活動に多大なるご支援、ご協力を賜り、
 深く感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
   卒業生一人ひとりの健康と、皆さんの前途に幸多からんことを心よりお祈り
 し、卒業の式辞といたします。
 
 
 
                                                        令和6年3月1日
                            神奈川県立茅ケ崎西浜高等学校 校長 大江雅美