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場面1 回想・決意

磯島・枚方西・枚方なぎさ高校演劇部

 

 

2004年度 コンクール近畿大会台本

Breakthrough〜ガンバレ井上ひろし!〜

西津昭美 作

 

 

 

 

《CAST》

・井上ひろし

・弥生

・さつき

・森田さん

・文子さん

・吉江さん

・将太

・斎藤さん

・はるみお姉さん

・ふゆみ

・アナウンス

・エキストラ

赤(子供)2人

(大人)6人

白(子供)2人

(大人)4人

 

 

場面1 回想・決意


SE:人のざわめく音。

アナウンス「これより第8種目、保護者による50m走です。

参加者の皆さんは指定の位置について下さい。」

4、5人の人が並んでいるシルエット。

それぞれが準備体操をしている。

アナウンス「位置について。よーい、」

SE:銃声・運動会の曲。

走り出す人々のシルエット。

中央に構えるひろしにだけサスがついている。

アナウンス「走者一斉にスタートしました。どの親御さんも早いですね〜。」

と、一人(井上ひろし)こける。

アナウンス「あぁ!一人こけてしまいました!

あれは井上さつきちゃんのお父さんか!?

大丈夫ですか〜?井上さん!!」

SE:笑い声。

そこにひろしの小学生の娘(さつき)がやって来て、ひろしを見る。

フェードアウトしていく運動会の曲と笑い声。

さつき「……………おとうさんの馬鹿!!」

そう言い捨てて走り去るさつき。

追いかけようとして、結局情けなくうなだれるひろし。

消えていく照明。

 

 

一瞬の暗転の後、すぐに再び灯りがつく。

ここは夜の高田町公園広場。

ひろし「……………………よし!」

突如顔を上げるひろし。よく見るとジャージを着ている。

ひろし「今年こそやるぞ!見てろよ〜さつき、父さんの勇姿を!!」

と、言って妙な走り込みを始めるひろし。

ひろし「位置について………よ〜いドン!

おりゃああああああああああああ」

そでにはけてゆくひろし。

しばらくして息切れしながら戻ってくる。

と、そこにひろしの妻(弥生)がやってくる。

弥生「お疲れさまです、調子はどうですか。」

ひろし「お、弥生!なんだどうしたんだ?」

弥生「遅いから迎えに来たんですよ。そろそろ終わったらどうですか。」

ひろし「じゃ、ちょっと50m走ってみせるからタイム測ってくれよ。

それで今日の特訓は終わるから。」

弥生「はい。じゃ、行きますよ?よ〜いスタート!!」

ひろし「おりゃああああああああああああ」

走り出すひろし。

変な走り方。しかも遅い。

かなりたった後

ひろし「(そでから)どうだった〜!?」

弥生「う〜〜ん……13秒36。このままじゃダメねえ。」

ひろし「(戻ってきて)そうか〜、結構頑張ったんだけど…なかなか早くならないなあ。」

弥生「特訓の仕方が悪いんじゃないですか?」

ひろし「毎日走り込みだけでは駄目なのか。

…ああ〜このままじゃ、またさつきに嫌われてしまう〜!!」

弥生「今年こそ1位とるんでしょう?じゃあもっと頑張らなきゃ!」

ひろし「あぁ…そうだよな。」

そこに森田さんが回覧板を持って通りかかる。

森田さん「あ、井上さん!こんばんは〜。」

弥生「あら会長さん。こんばんは。」

森田さん「いや〜ちょうど良かった!

今お宅に向かっていた所なんですよ。回覧板届けにね。

…ここで何やってるんですか?」

ひろし「あ、いえ、その、なんでもないです!で、森田さん回覧板は?」

森田さん「ん?ああこれです。」

ひろし「ありがとうございます。………でも何で森田さんが回覧板を?」

弥生「前は文子さんから回ってきたんですが。」

森田さん「ええ。ちょっと今回は重要事項の回覧板なもんで、

この高田町町内会名誉会長の森田が直々に回しているんです。」

ひろし「重要事項?(回覧板をぱっと見)…町内会費のことですか?」

森田さん「いやいや。そんなもん重要でも何でもないです。

そんなことなら私はわざわざ動いたりしません。面倒臭い。

ほら一枚目にでーんとでっかく書いてあるじゃないですか。」

ひろし「あぁ、小学校の運動会の話で。」

森田さん「そうそれそれそれ。」

弥生「運動会が重要なんですか?」

森田さん「あ、そうか。井上さんところはこの間引っ越してきたんでしたっけ。」

ひろし「そうです。」

森田さん「じゃ、知らないか。

あのですね、ここいらの町は子供が少なくて小学校の運動会もまともにやってあげれないんですよ。

学校の運動場も狭いし。」

ひろし「はぁ。大変ですね。」

森田さん「大変なんです。

そこで高田小学校の運動会では老若男女自由参加って事にして、

ここの公園広場で大々的にやる事になっているんです。」

ひろし「そうなんですか。」

弥生「なんだか面白そうですね。」

森田さん「面白いですよ〜。大会中一番はしゃぐのがじーさんにばーさん、去年は救急車が一台要請されました。」

ひろし「どれだけはしゃいだんですか。」

森田さん「ま、その話は横に置いといて。たぶん今年も見られますし。」

ひろし「え、今年も?」

森田さん「(無視)今年は井上さんが越してきてくれましたからね。

こりゃ是が非でも参加してもらわなければと、この高田町内会名誉会長の森田が直々に回覧板を届けに来たわけですよ。

参加してもらえませんかね。」

ひろし「わかりました。参加します!」

森田さん「おお、ありがとうございます!!」

ひろし「そこまで事情聞かされて断るわけにもいきませんよ。

それに元々参加するつもりでしたし。」

森田さん「おや?もう運動会の話は聞かれていましたか。」

弥生「はい、文子さんから。」

森田さん「そうですか。まあとにかくありがたい!!

……………ところで井上さん。さっきから気になっていたんですが、その格好は何です?」

ひろし「う!」

森田さん「これからジョギングにでもいかれるんですか?」

ひろし「え〜、ええまあ………そんなカンジのもので……。」

ひろしは元来素直な性格でした。

必死に目を反らすひろし。

森田さん「ちょっと井上さん、目見て話してくださいよ。」

ひろし「え〜、う〜………(眼鏡を外して)わー何も見えない!!」

森田さん「めちゃくちゃ手に持ってるじゃないですか。」

ひろし「うぅ、鋭い指摘で。」

森田さん「弥生さん、ちょっとちょっと。」

森田さん弥生を呼ぶ。

森田さん「見てください井上さん、弥生さんと私で何の意味もなさないポ〜ズ。」

2人でよく判らないポーズをとる。

ひろし「わ〜見たい!弥生のは見たい!!でも見ない。」

森田さん「パートツー。」

更に妙なポーズをとる2人。

ひろし「わ〜見たい!パートツーも見たい!!でも見ない。」

森田さん「………井上さん。」

ひろし「(まだ目を不自然にそらし続けながら)なんでしょう、森田さん。」

森田さん「…特訓ですか?」

ひろし「(まだまだ不自然に目をそらし続けながら)な、なんのことでしょう。」

森田さん「抜け駆けはいけませよ、井上さん。」

ひろし「(不自然に目をそらし続けながら)いや〜何の事か私にはさっぱり。」

森田さん「………まぁ良いですよ。

そこまで必死に誤魔化しきれてない誤魔化しを見ると、これ以上突っ込めませんわ可哀相で。」

ちょっとホッとするひろし。

ひろし「ではそういうことで!帰ろうか弥生。」

弥生「え?あ、はい。」

とっとと帰ろうとするひろし。

森田さん「待ってくださいーーーー!」

しかし森田さんにしがみつかれ弥生諸共ころんでしまう。

ひろし「おわーー!!ちょっと森田さん何するんですか!!?」

森田さん「待って下さいよ、井上さん!

最後にこれだけは言わせてください。」

ひろし「な、なんでしょう。」

森田さん「私もその特訓に、参加させてください!」

ひろし「へ?」

森田さんを見て呆然とするひろし。

暗転。

 

 

場面2 特訓?@何からしましょう。


次の週の日曜日、早朝の公園広場。

暗転中からSE:ダンスの曲。

明転するとそこにはダンスをする森田さん、吉江さん、斉藤さん、

そして呆然とたたずむひろしの計4人。

いや、もう1人若いお姉さんが中央に立ってダンスを教えている。

はるみお姉さん「はい!元気良く!!ワンツー、ワンツー!」

ひろし以外の3人「わんつー、わんつー!」

楽しくダンスをする森田さんら4人。

傍観しているひろし。

はるみお姉さん「吉江さん頑張って、もっと大きくのびのびと!ワンツー、ワンツー!」

ひろし以外の3人「わんつー、わんつー!」

のびのびとダンスをする森田さんら4人。

傍観しているひろし。

森田さん「(踊りながら)や〜、案外ダンスってのも楽しいですね!

若い者がやるもんだとちょっと侮ってましたよ。

…ん?どうしたんですか井上さん。ちゃんと一緒に踊らなくちゃ。」

ひろし「はぁ。………いや、あの〜森田さん?」

森田さん「(踊りながら)なんでしょう。」

ひろし「昨日の夜、あなたは私の特訓に参加したいといってきたんですよね。」

森田さん「(まだ踊りながら)はいはい。言いましたとも。」

ひろし「まぁあなたが私の特訓の事を娘に黙っていて頂けるのならいいですよ、でも!」

森田さん「(未だに踊りながら)でも、なんですか?」

ひろし「じゃ、なんでいきなり踊っているんですか!走る特訓するんじゃなかったんですか!?」

森田さん「(踊りながら)これも特訓の1つですよ。」

ひろし「は?」

森田さん「実は運動会の種目で保護者による出し物があるんですよ。

今年はダンスをすることになりまして、これはその練習なんです。」

ひろし「ああ、なるほどそうゆうことですか。」

森田さん「因みにこれは保護者全員強制参加なので井上さんもちゃんと練習してください。」

ひろし「わ、私も踊るんですか!?」

森田さん「もちろんですとも。強制参加ですって。」

はるみお姉さん「ちょっとお二人さん!ちゃんと練習してください!!」

森田さんとひろし「あ、はいはい。」

はるみお姉さん「では次のいきますよ!ワンツー、ワンツー!」

5人「わんつー、わんつー!」

ひろし「(あまり上手くないが一応踊りながら)ところで、この方は?」

森田さん「(同じく踊りながら)ああ、はるみちゃん?

二駅向こうの街で、ダンススクールのインストラクターやっているんです。

時間の合う人達から順にダンスを教えてもらってるんですよ。」

はるみお姉さん「(またも同じく踊りながら)どうもこんにちは!井上さん!」

ひろし「え?何で名前を?」

斎藤さん「うちの娘なんですよ。」

ひろし「え?あ、斎藤さん!あなたも参加していたんですか。」

森田さん「おや、知り合いだったんですか?」

ひろし「通勤電車が同じなのでよくご一緒するんですよ。」

斎藤さん「それにうちの末っ子のふゆみと、さつきちゃんは同じ年なんです。」

森田さん「へぇ〜そうなんですか。

………それはそうとはるみちゃん。まだ結婚しないの?」

はるみお姉さん「んな!?いきなりなんですか、大きなお世話ですよ!!」

森田さん「誰かいい人いないの?なんなら紹介しようか?」

吉江さん「うちの病院になかなか真面目な方がいるから、よかったら」

はるみお姉さん「結構です!(腕時計を見て)あ、もうこんな時間!

今日はこれくらいで終わりましょうか。私はそろそろ仕事に行きます。

みなさん、判らないところがあったら私に聞いてくださいね。」

ひろし「わかりました。」

吉江さん「忙しいのにありがとうね。」

はるみお姉さん「いえいえ。これも仕事の練習になりますから。」

森田さん「御礼に今度知り合いの若いの紹介するよ。」

はるみお姉さん「結構ですってば!」

ひろし「お仕事頑張って下さいね。」

はるみお姉さん「ありがとうございます。皆さんも頑張ってくださいね。

では、お疲れさまでした!」

はるみお姉さんそでにはける。

森田さん「では我々もそろそろ解散しますか。」

斎藤さん「お疲れさまでした!」

吉江さん「本番頑張りましょうね。」

斎藤さん達もはけていく。

ひろし「では私もそろそろ…。」

森田さん「ちょっと待った!!私達はこれから運動会の特訓でしょうが。」

ひろし「………やっぱりやるんですか。」

森田さん「もちのろんです!」

ひろし「うぅ、こっそり特訓しようと思っていたのに…。」

森田さん「ささ、部長さん!何をするか決めて下さいよ。」

ひろし「な、何ですか部長って。」

森田さん「《運動会に向けて頑張るぞクラブ》部長です。」

ひろし「そんなクラブに入った覚えないですよ!………しかも私が部長ですか!?」

森田さん「さっき決めました。因みに私、顧問です。」

ひろし「そんな勝手な…。」

森田さん「とにかく何か特訓メニュー考えて下さいよ。話が進まないじゃないですか。」

ひろし「はぁ。………でも今までの私の特訓は、ただ闇雲に走り回るだけなんですけど」

森田さん「じゃ、井上さん軽く走って下さい。」

ひろし「え!?私だけ走るんですか?」

森田さん「はい、よーーーいドン。」

慌てて走り出すひろし。

一回こけてから、そでに駆けてゆく。

森田さん「遅いですね〜、もっと頑張ってくださーーい!」

と、物陰に妙な影がうごめいている。

果たしてその正体は?

森田さん「ぬ!何奴!?」

振り向くと其処には斎藤さんと吉江さんが隠れていました。

森田さん「斎藤さんも吉江さんも、何やってるんですかそんなところで!

帰ったんじゃなかったんですか!?」

斎藤さん「う!バレましたか。」

森田さん「それで隠れてるつもりですか。」

吉江さん「つもりでした。森田さん達こそ何しているんですか?」

森田さん「あ、これはその〜〜〜……。」

ひろし「(そでから)森田さーん、一体何処まで行けば良いんですか〜?」

森田さん「は!なんて間の悪い時に!」

ひろし「(そでから)それにこれあまり特訓になりませんよ〜」

吉江さん「え?特訓?」

森田さん「わー!わー!わー!」

必死に誤魔化す森田さん。

ひろし「(そでから戻ってきて)……あれ、皆さん何やっているんです?」

吉江さん「あの〜……井上さん達は、運動会の特訓をしているんですか。」

斎藤さん「抜け駆けは無しですよ。」

ひろし「……………………………何でばらしたんですか森田さん!!」

森田さん「貴方のせいでしょうが!」

吉江さん「お願いです井上さん!私もその特訓に混ぜてください!!」

ひろし「え?………え〜っと、」

森田さん「高田病院で看護婦やってらっしゃる佐々木吉江さん。」

ひろし「あぁ、すいません…失礼しました。」

吉江さん「いえ、いいんですよ。私仕事が忙しくて地域行事1に参加できていないので、ご存じなくても無理ないです。」

ひろし「そうなんですか。」

吉江さん「でも今年の運動会は久々に休みが取れるので、息子の将太に良い所を見せてあげたいんです!

お願いします!井上さんの特訓に参加させて下さい!!」

ひろし「あ、いえいえ。そういう事情なら私もわかりますし。」

森田さん「じゃあ吉江さんは参加OKってことで。

部長の許可が下りてよかったですね、吉江さん。」

ひろし「引っ張りますね、その称号。」

斎藤さん「僕も入れてもらえませんか?」

ひろし「え?斎藤さんもですか?」

斎藤さん「はい!何だか面白そうですし、僕も仲間に入れてください!」

森田さん「(何か思いついたらしい顔をして)良いですよ。」

ひろし「え?(森田さんを端っこに引っ張っていって)

ちょっとちょっと森田さん!たしか斎藤さんって中学、高校、大学と陸上やっていたって聞きましたよ。

特訓なんて必要ないじゃないですか。」

森田さん「ふふふふふ……だからでこそ許可したんですよ!

陸上経験者の斎藤さんに教えを乞えば、今年の50M走勝てるかもしれないじゃないですか!」

ひろし「その為に誘ったんですか…何だか邪道な気もしますが………。

(斎藤さんに)因みに斎藤さんは、学生時代陸上では何を?」

斎藤さん「(実際やりながら)砲丸投げです!」

ひろし「へぇ、そうですか〜。(またもこっそり森田さんに)駄目じゃないですか!」

森田さん「すみません陸上って全部走るもんだと思っていました。

まぁ斎藤さんは去年2位でゴールしていましたし、たぶんそれなりに早いでしょう。

教えてもらって損はないと思いますよ。たぶん。」

ひろし「そうゆうもんなんですかね。」

森田さん「大丈夫ですって。

はい!ではここに《運動会に向けて頑張るぞクラブ》メンバー結成〜!!」

4人拍手。

其処に文子さんが通りかかる。

どうやらランニング中の模様。

頑張るぞクラブを横目で見て、

文子さん「………ふん。」

そして走り去る文子さん。

4人「……………。」

ひろし「あれは……文子さん?」

吉江さん「何しているんでしょう。」

斎藤さん「トレーニングでしょうね。」

森田さん「あのばーちゃんココの公園広場の周りをいつも走っているんです。

多分また来ますよ。」

ひろし「何で文子さんが?」

森田さん「あ、そうか井上さんは知らないんでしたっけ。

実はあのばーちゃんは、ここ数年の50m走1位記録保持者なんです。」

ひろし「えぇーーーーーー!?文子さんが!?」

森田さん「まあばーちゃんはいいでしょう。そろそろ特訓始めましょうか!!」

吉江さん「で、具体的に何をするんですか?」

森田さん「部長が決めて下さい!」

ひろし「だから走る以外思いつきませんて。

そうだ斎藤さんが学生の時はどんなことをしていましたか?」

斎藤さん「そうですね〜………、走り込みとかですかね。」

吉江さん「短い距離を次々に走っていくあれですか?」

森田さん「なるほど!それはまさしく特訓っぽいですな!

でもどうせ走り込むならちょっとひねりましょうや。」

ひろし「は?ひねるって、例えばどういう事ですか?」

森田さん「………《だるまさんが転んだ》をしながら走り込みましょう!」

ひろし「何故。」

斎藤さん「達磨。」

吉江さん「意味ないと思うんですが。」

森田さん「そんな一気に責めないでくださいよ!!

良いじゃないですか、ただ走るだけなんてしんどいだけで全然楽しくないですよ!」

斎藤さん「いや、しんどいから特訓なのでは?」

森田さん「たまには童心に還りましょうよ!」

ひろし「還ってどうするんですか。」

森田さん「もう皆さん細かいなぁ。

いいですか?ここからあそこの木まで大体50メートルくらいです。

あそこから猛ダッシュでここまで走るだるまさんが転んだ。結構きついですよ。」

斎藤さん「なるほど…、そういうことなら良いですよ。」

吉江さん「それで特訓になるのなら。」

ひろし「はぁ。じゃ、やりますか。」

森田さん「では満場一致で決定!じゃんけんほい!」

3人あとだし。

ひろし負ける。

森田さん「はい、井上さんの負け!皆さんいきましょう!」

ひろし以外の3人、下手そでにはけていく。

一人残されるひろし。

ひろし「………なんてダーティーな…」

しぶしぶセンターで前を向き、位置につくひろし。

ひろし「じゃ、いきますよーー?だーるまさんが、こーろんだー。

(下手を見ながら)お、斎藤さん結構早いですね〜!!

(上手を見て)って文子さんもっと早ッ!!」

何故か参加している文子さん。

ひろし「文子さんも参加なんですか?………まぁ良いですよ。」

再びポーズを構えるが文子さんにフェイントをかますひろし。

ひろし「は〜い引っかかりましたね、手つなぎますよ〜。

(下手を振り返る)おぅわ森田さん近い近い!!ズルですよそれ!!」

近距離で固まっている森田氏。

ひろしが文子さんを騙している間に駆け込んできたのだ。

ひろし「ま、まあいいですよ。次いきます。だるまさんがころんだ!!

(振り向く)おうわぎりっぎり!そして2人普通――!!」

森田さんのチョップがひろしと文子さんの繋いだ手をきる寸前で止まっている。

斉藤さんと吉江さんはあまり動いていない。

ひろし「次いきまーす。だるまさんがころん」

手をきる森田さん。

そでにはけていく4人。

ひろし「12345678910ストップ!!」

一度止まってひろしを見る森田さん。

しかし再び逃げ出す。

ひろし「いやストップ!ストーーーーーップ!!」

追いかけるひろし。そでにはけていく。

 

 

入れ違いに買い物帰りらしい弥生とさつきがやってき、

そこに子供達が笑いながら入ってきて反対そでへ駆け去る。

楽しそうな子供達を寂しそうに眺めるさつき。

弥生「どうしたの?」

さつき「………」

弥生「……さっちゃん、もしかしてまだ友達出来てないの?」

さつき「…うん……」

弥生「さっちゃんはちょっと人見知りしちゃうからねぇ。」

さつき「………」

弥生「まぁ、ゆっくりでいいんじゃない?きっとすぐに友達にできるわよ。」

さつき「…そうかな。

弥生「大丈夫大丈夫。さ、帰ってご飯作ろうか。」

さつき「うん。」

弥生とさつきはけていく。

暗転。

 

 

場面3 特訓?Aもっと真面目な練習しましょうよ。


次の週の日曜日。夕方の公園広場。

暗転中からSE:マイムマイム。

明転すると舞台にラジカセが置いてあり、森田さんがそばで踊っている。

ノリノリでイスの周りを回っている他のメンバー達。

森田さん「ぬおりゃああーー!!」

ひろし「うおわ〜〜〜〜〜!」

曲を止め、ものすごい勢いで尻から突っ込んできた森田さんにはじかれるひろし。

森田さん「はい井上さんの負け〜!」

斎藤さん「もっと頑張ってくださいよ。」

吉江さん「大丈夫ですか?」

ひろし「だ、大丈夫です。……でも1つ質問していいですか?」

森田さん「井上さんはここに来るたびに必ず何か聞きますね。何でしょう。」

ひろし「これは一体何の特訓なんですか?」

森田さん「………わかりませんでしたか?」

ひろし「いえ、全く。」

吉江さん「実は私もよく判りません。」

斎藤さん「僕も。」

森田さん「なんだなんだ皆さん!!

さっきまで力の限りイス取りゲームしていたのに急に私につっこみだして!

この特訓は俊敏さを鍛えるんです!!」

ひろし「はぁ。遊んでいるだけだと思ってました。」

森田さん「失礼な!」

ひろし「いや、バカにしているわけではないんですよ。

でも前から思っていたんですが……なんというか、特訓しているって感じがしないんですよ。」

吉江さん「遊んでいるようにしか見えませんしね。」

ひろし「そうなんです、なんか気が抜けちゃうんですよね。」

森田さん「ムカ!今更私の特訓方法にケチ付けますか!

それなら特訓クラブ部長が何をするか決めたらいいじゃないですか!!」

ひろし「まだあったんですかその称号。

ちょっと森田さん、いい年してすねないでくださいよ!」

森田さん「すねてなんかいませんヨ!」

ひろし「めちゃくちゃすねてるじゃないですか!

ちょっとなんとかして下さいよ、斎藤さん。吉江さん。」

吉江さん「井上さん、もうあなたが決めちゃって良いんじゃないですか?」

斎藤さん「何か考えてくださいよ」

ひろし「えぇ!?またいきなりですねぇ………え〜っと、スクワットとかですか?」

突如ものすごい勢いでスクワットを始める森田さん。

他も慌てて真似をする。

森田さん「次は!?」

ひろし「え、え〜っと…」

斎藤さん「反復横飛びはどうですか?」

文子さん「何やってんの?あんた達。」

吉江さん「あ、文子さん。」

森田さん「ばーちゃんもやってやって!!」

文子さん「えぇ!?」

5人一斉に縦一列に並んで反復横飛び。

一度にやるからかなり異様。

吉江さん「ポーズ!!」

5人「ニャー!」

5人一斉にぴたっと止まってキャッツのポーズ。

ひろし「バレエ!」

横に並んで白鳥の湖を踊る大人5人。

段々趣旨が変わってきている。

途中さつきが縄跳びを持って出てくるが、大人達は気付かない。

吉江さん「バレーボール!!」

突如豹変し、バレーの特訓を始める5人。

吉江さんにしごかれて倒れる森田さん。

5人「はっ!」

曲が止まった途端全員正気に戻る。

ひろし「大丈夫ですか?森田さん。」

森田さん「もう駄目です。」

吉江さん「ちょ、ちょっとやりすぎましたね。」

バテて動けない森田さん。

まだ騒ぐ大人チーム。

さつき「………おとうさん?」

ひろし「え?……………さ、さつき!!いつからそこに!?」

さつき「さっきからいたよ?こんなところで何やってるの?」

斎藤さん「えっと!これはその…」

森田さん「ふはははは!!見られてしまっては仕方がない!

実はおじさんたちは、秘密特訓をしていたのだーーー!!」

ひろし「え、ちょっと、何いきなりばらしてくれてるんですか森田さん!!

娘には秘密にしてくださいとあれほど」

森田さん「(途中からひろしをさえぎりながら)いやいや実はね、

おじさん達はクリスマスの出し物の練習をしていたんだよ!」

ひろしと斎藤さん「え?」

吉江さん「あ!そうそうクリスマス会のね!」

森田さん「ま、そんなわけでこのことは内緒で頼むよ。

さあさあ、皆さん練習を続けましょうか!!

井上さんが怪獣役の文子さんを倒すところからいきますね〜。」

さつき「へ?おとうさんもでるの?」

森田さん「もちろん!さあ行きますよ皆さん!」

ひろし「え、ちょっとどうすりゃいいんですか?」

吉江さん「せっかく会長さんがフォローしてくれたんだし、やりましょうよ!」

文子さん「え、あたしもやるの?」

斎藤さん「井上さんのためです!」

突如流れ出すSE:ヒーローっぽい曲。

森田さん「(ヒロインらしい)助けて保護者マ〜ン!!」

ひろし「えぇ!?森田さんヒロインなんですか!?」

斎藤さん「(博士らしい)さあ行け!保護者マン!!」

ひろし「じゃ、じゃあいくぞ!喰らえ必殺保護者マンキーーーーック!!」

文子さん「(敵らしい)ふっはっはっはっは!そんな攻撃じゃ痛くもかゆくもないわ!

今度はこっちからいくよ!破壊光線〜〜〜」

ビビビビビ。

痺れる保護者マンこと井上ひろし。

斎藤さん「くそ、強いなこいつ!保護者マン!秘密兵器を使うんだ!!」

ひろし「秘密兵器ってどれですか博士!」

斎藤さん「ジャージを脱いで、変身するんだ!!」

ひろし「わ、私は変身せずに戦っていたんですか!?」

斎藤さん「さあ行け!保護者マン!」

ひろし「よ〜〜〜し!!(舞台端でこっそりジャージを脱いで)

家族を守る優男!保護者マン!!」

シャキーーン

森田さん「(元に戻って)はい見学はここまで!あとはクリスマスまでのお楽しみ〜☆」

さつき「えぇ〜!!いいじゃん、誰にも言わないから」

森田さん「駄目駄目!秘密特訓っていったでしょ、ほら遊んでおいで。」

さつき「は〜い。」

さつきしぶしぶはける。

笑顔で見送る大人達。

4人「ふ〜〜〜〜……。」

ひろし「危なかった…。」

斎藤さん「森田さん、ナイスフォロー!」

森田さん「いきなりだったんでちょっとひやひやしました。

みなさんアドリブ上手いじゃないですか。」

文子さん「こんなものはノリよ、ノリ。」

斎藤さん「そういえばここは子供がよく遊んでいるんですよね。」

吉江さん「これからは気を付けないといけませんね。」

森田さん「…ところで皆さん、これでクリスマスの劇には出てもらわなければいけなくなりました!」

ひろし「え?な、何でそうなるんですか!」

吉江さん「さっき会長さんがさつきちゃんに言っていたじゃないですか。おとうさん達も出るって。」

斎藤さん「あ。そうか。」

ひろし「ああーーー!!しまった!」

森田さん「言っちゃったもんは仕方ないでしょう!」

文子さん「子供の期待を裏切っちゃあ駄目だよ!」

ひろし「うぅ〜…でもそれとこれとは話が別で」

さつき「(再び入ってくる)おとうさーん、言い忘れてたんだけど」

ひろし「まだまだこれからだ!!喰らえ必殺猫だまし!!アーンド保護者マンチョップ!!」

文子さん「ぎゃーーーー!!」

ドカーン

あっさり倒れる文子さん。

斎藤さん「やった怪獣を倒したぞ!これで地球の平和が守られた!!」

森田さん「保護者マーン!」

ひろし「大丈夫か森子―!」

駆け寄る保護者マン。

が、そこで

森田さん「どう!!」

ひろし「ぐわぁ!!」

森子のスクリューパンチが炸裂する。

SE:悪役っぽい曲。

森田さん「ふっふっふ………、甘いな保護者マン!

実は私が悪の親玉だったのだ!!」

斎藤さん「何ぃ!?」

ひろし「そんな!うそだ、森子――――――!!(元に戻って)はい!」

みんなバテバテ。

ひろし「(ちょっと息切れしながら)………で、どうしたんださつき…」

さつき「あのね、おかあさんが今日は早めに帰ってって言ってた。」

ひろし「そうか、わかった…もうちょっとしたら帰るよ。」

さつき「うん、じゃあねー。」

さつきがはけきったところで

4人「ふ〜〜〜〜〜〜……。」

ひろし「あ〜、びっくりした…!」

森田さん「これ実はさっきの筋トレ並に疲れますね。」

斎藤さん「も、もう流石に来ませんよね」

さつき「(しかし再び来る)おとうさ〜〜ん。」

ひろし「よくも騙したなーーー!!保護者マ〜ンパーーーンチ!!」

森田さん「森子必殺!!騙される方が悪いんじゃカウンター!!」

ひろし「ぐわぁ!」

ひろし負ける。倒れる。

森田さん「ふっはっはっは!トドメだ保護者マン!!」

?「待ちなさい!!」

森田さん「む!誰だ!!」

SE:ヒロインっぽい曲。

華麗なジャンプで現れたのは、

吉江さん「家族を守る未亡人!保護者ウーマン!!」

シャキーーーン

森田さん「虫けらが一匹増えたところでなんの意味もないわ!!」

斎藤さん「2人とも、保護者マンバズーカをつかうんだ!!」

ひろし「よ〜〜し、合っ体!!」

吉江さん「保護者マンバズーカーー!」

敵に向かって飛んでいく保護者マン。

森田さん「ぐわああああぁぁ!!」

どかーん

斎藤さん「こうして地球の平和は守られた。

ありがとう、保護者マン!保護者ウーマン!!」

2人・決めポーズ。

ひろし・吉江さん「じゃきーーーん!!」

ひろし「(元に戻って)はい!」

限界に近い大人達5人。

全員よろよろ。

ひろし「(かなり息切れしながら)………………で、さつき……。今度は何だ?」

さつき「うん…」

ひろし「……どうした?」

さつき「………………あのね、おとうさん運動会出なくていいから!!」

走り去るさつき。

ひろし「………………え?」

うちひしがれて、呆然とたたずむひろし。

 

しばらく重苦しい空気が辺りを包む。

そのうち森田さんがひろしに近づき、肩にポンと手を置く。

森田さん「井上さん……………………ドンマイ☆」

ひろし「……………」

吉江さん「(慌てて森田さんを脇まで引きずっていって)ちょっと森田さん!なんですかその慰め方は!」

斎藤さん「もっと上手くフォローして下さいよ!!」

森田さん「しょうがないですね〜…。井上さん、とにかく特訓続けましょうよ!」

ひろし「………でもさつきに運動会出ないでって言われたのに

……勝手に出たら余計に嫌われるんじゃ………」

吉江さん「井上さん、ココで諦めちゃいけませんよ!ちゃんと名誉挽回しないと。」

斎藤さん「そうですよ!頑張って良いところみせれば、きっとさつきちゃんも許してくれますよ!」

ひろし「………そうですかね。」

森田さん「そうですよ!それに今年やらないでまた来年も『おとうさん運動会出ないで!』っていわれてもいいんですか?」

ひろし「それは嫌です!!!」

森田さん「でしょう!なら一緒に頑張りましょうよ。」

ひろし「…はい。」

文子さん「………………一緒に頑張るか、なんだかねぇ。」

吉江さん「何ですか文子さん?」

文子さん「ずっと気になっていたんだけどね、あんた達何で仲良く特訓なんかしてるんだぃ。」

ひろし「え…?」

文子さん「みんな50m走に出るんだろう?」

ひろし「えぇ、まあ」

斎藤さん「一応保護者の花形競技ですから。」

文子さん「なら競う相手とつるんでどうするんだい。

全く、あんた達は本当に勝つ気あるのかぃ?」

4人「……………」

吉江さん「……今日は、これまでにしときましょうか。」

ひろし「え?」

吉江さん「今日はもう十分でしょう。私、そろそろ失礼します。」

斎藤さん「じゃあ、僕もお先に…」

ひろし「あ、はい…」

2人去る。

森田さん「………そんじゃ、私も帰りますかね。」

ひろし「森田さん。」

森田さん「お疲れさまでした〜…」

ひろし「お、お疲れさまでした………」

森田さんはける。

残されたひろしと文子さんは、しばらくぼーっとしている。

辺りはもう暗くなってきている。

ひろし「………………文子さん、何であんな事言ったんですか?」

文子さん「思ったことを言ったまでよ。大体気付かなかったの?」

ひろし「はぁ、気付きませんでした。」

文子さん「情けないねぇ………。いいかい、運動会は子供だけのお祭りじゃないんだよ!?

親の戦いでもあるんだから、自分が勝つ事だけ考えてなきゃ!

………あんたも勝ちたいと思うには、何か理由があるんでしょ。」

ひろし「……あります。」

文子さん「さつきちゃんの為?」

ひろし「ええ。」

文子さん「あの子は何であんなこと言ったんだい?」

ひろし「………………実は去年の運動会で、私は転んでしまったんです。

……そしてその後、さつきはしばらく学校でいじめられました。」

文子さん「からかわれたのかい?」

ひろし「はい。………子供ってのは怖いですよ。何でも話のネタになってしまうんですね。

さつきの場合は私が原因でした。…私が原因で、クラスの男子にバカにされたんです。

『井上の父ちゃん、格好悪いなぁ!』って……」

文子さん「………」

ひろし「…些細なことではあるんですよ、

でも子供達はそういうことにも凄く傷つくんです。

……その後しばらくして、私の転勤が決まりました。」

文子さん「それであの子はあんな事言ったの。」

ひろし「はい。また同じ事をされたくないんだと思います。」

文子さん「なのにあんたは出る気なんだね。」

ひろし「はじめは私も辞めておこうと思ったんですよ?

でも妻の弥生に、『このまま運動会を避け続けるのか』と言われて………考えを変えました。

やはり娘に拒否されたままでいるのは、親として悲しいですからね。

……私は名誉挽回して、娘の喜ぶ顔が見たいです。」

文子さん「……………」

ひろし「……………文子さん?」

文子さん「……あ〜あ、聞いちゃったよ。」

ひろし「え?」

文子さん「あのねぇ、こういう事情はあまり聞かない方がいいのよ。やりにくくなるから。」

ひろし「あ……そうですね。」

文子さん「まぁ聞いちゃったものは仕方がないか。あたしは気にしないようにするよ。」

ひろし「文子さんが走る理由は何ですか?」

文子さん「だから聞かない方がいいってば。」

ひろし「でもそれじゃあ不公平ですよ。聞かせてください。」

文子さん「う〜ん…そんなに大した理由じゃないけど………

あたしにはライバルが居るのよ。」

ひろし「誰ですか?」

文子さん「うちの旦那。」

ひろし「文子さんの?」

文子さん「そう、凄いのようちのじーさんは!

何てったってあたしと互角………いやそれ以上の速さで走るんだから!!」

ひろし「物凄い速いじゃないですか、文子さんでさえ斎藤さんより速いでしょうに!!

いや〜、お会いしたいですね〜!」

文子さん「残念。2年前にぽっくり逝っちまったよ。」

ひろし「え?」

文子さん「……………………どうしたの?」

ひろし「いや、その………すいませんでした。」

ため息をついて歩き出す文子さん。

そでの方に移動していく。

文子さん「だから最初に言ったでしょうに。これで手加減したら許さないからね。」

ひろし「気を付けます。」

文子さん「あと、レースを棄権しても怒るからね。」

ひろし「わ、わかりました!」

文子さん「じゃあ、精々頑張るんだね。」

ひろし「はい!」

はけていく文子さんを見送って、ベンチに座り込むひろし。

辺りは夕闇が迫ってきている。

街灯が薄っすら光りだす。

ひろし「…………………………『おとうさんは出ないで!』、か………。」

また独りぼうっとしているひろし。

しばらくそのままで居る。

が、ふと立ち上がり、家に帰る。

 

 

またしばらくして今度は少年が入ってきて

1人走る練習らしきことを始める。

将太「誰もいないな〜……………よし!

(スタートのポーズを取り)よーいドン!!」

走りさる将太。

そこにちょっと沈んだ感じのさつきがやってくる。

走る練習中の将太を発見し、物陰に隠れて盗み見る。

将太「(そでの中から)よーいドン!!」

走りながら帰ってくる。

と、こける。

さつき「あ。」

将太「だ、誰だ!?」

さつき「あ、しまった…!」

将太「ん?何だ井上か〜。」

さつき「え〜っと…………あ!同じクラスの」

将太「佐々木将太。」

さつき「………将太君は、こんな時間に何で走る練習してるの?」

将太「う!やっぱり見てたのか。」

さつき「…見ちゃいけなかったの?」

将太「別に悪くはないけど………

でも、頼むからうちの母ちゃんには黙っていてくれよ!!」

さつき「…なんで言っちゃダメなの?」

将太「いいから!!」

さつき「いいけど…………………あ、もしかして運動会の練習?」

将太「う!いや、違う!」

さつき「だって走る練習していたじゃない。……運動会で、お母さんに見せたいの?」

将太「………そ、そうだよ!!

うちの母ちゃん運動会なんてめったに来ないんだから、1位取って見せたいんだよ!!

悪いか!!」

ふゆみが縄跳びを持ってやってくるが、2人に気付いて物陰に隠れる。

さつき「べ、べつに悪いなんて言ってないよ。………でも、わかんないなぁ…」

将太「何が。」

さつき「なんでそんなに張り切るの?」

将太「…え?」

さつき「………おとうさん達が見に来るの…恥ずかしくない?」

将太「…………………井上んとこってさ。父ちゃんも、母ちゃんも見に来るんだろ。」

さつき「え?うん、まあ…」

将太「そっか………」

さつき「?それがどうしたの?」

将太「じゃあ、俺の気持ちはわからないよ!!」

さつき「え?」

将太そでに向かって走っていく。

ふゆみ「将太君!」

さつき「…あ、ふゆみちゃん?」

ふゆみ「え?あ!い、いやこれはその〜ちょっと通りかかってね………

ど、どうかした?」

さつき「……なんかよくわからない。……………何で怒ったのかな…。」

ふゆみ「………さつきちゃん、さっき運動会の話してたでしょ。」

さつき「うん。」

ふゆみ「たぶんそれが原因だと思う。」

さつき「…どうゆうこと?」

ふゆみ「将太君ね、小さい頃お父さんが死んじゃってお母さんしかいないんだって。」

さつき「………そうなの?」

ふゆみ「それにお母さん看護婦だから、運動会とか全然来られないらしいよ。」

さつき「…………だからあんな事言ってたのか。」

ふゆみ「さつきちゃんは運動会が嫌なの?」

さつき「うん……」

ふゆみ「何で?」

さつき「………ふゆみちゃんのおとうさんって、運動できる?」

ふゆみ「う〜〜ん……まあまあかな。

さつきちゃんのおとうさんはダメなの?」

さつき「……うん。」

ふゆみ「そっか、だから嫌なのか。」

さつき「それだけじゃないけど……………………うん。」

ふゆみ「そっか。」

 

もう辺りは暗い。

街灯だけが明るく輝いている。

 

ふゆみ「………あのね!うちのパパ背低いの!!」

さつき「え?」

ふゆみ「あたしね、年の離れたお姉ちゃんが居るんだけど、はるみお姉ちゃんより低いの!」

さつき「………おとうさんなのに、子供より低いの?」

ふゆみ「うん。砲丸投げやってたせいなんだって。

パパはまだまだ伸びるって言ってたけど、多分もう伸びないと思うよ。」

さつき「………それがどうかしたの?」

ふゆみ「だからさ、パパ達にも色々欠点があるって事!」

顔をあげて、ふゆみを見るさつき。

ふゆみ「あたしだってパパが恥ずかしいことだってあるよ。」

さつき「………でも、良いの?」

ふゆみ「うん。普段はそれほど嫌いじゃないしね。」

さつき「………そっか。」

ふゆみ「そろそろ帰ろっかな。もう暗いし。

じゃね、バイバーイ!!」

さつき「うん、バイバイ。」

軽く手を振ってふゆみを見送った後、

しばらくベンチに座り込んでぼうっとするさつき。

さつき「………。」

そしてふと立ち上がり、はけていくさつき。

街灯が明るく光っている。

暗転。

 

場面4 運動会本番。


暗転中からSE:ダンス。

徐々に明転。場所はいつもの公園広場。

ただロープが張ってある。

ロープの前でひろし、森田さん、文子さん、斎藤さん他多くの大人達が踊っている。

かなり上手くなっていて楽しげ。

踊り終わって参加者各々お疲れさまとか言い合う。

アナウンス「開会式、保護者によるダンスでした。

続きまして高田町町内会会長の森田さんによります、運動会開始の挨拶です。」

拍手。

森田さんマイクを受け取って、

森田さん「はいそれでは………始め。」

拍手。

ひろし「そんなんで良いんですか!」

森田さん「良いんです!」

アナウンス「プログラム第1番、全員参加の宝探し大会です。」

色んな親子がそこかしこからいっぱい出てき、ざわざわ騒いでいる。

ひろし「宝探しって、何探すんですか?」

文子さん「ココの公園の中に隠してあるものを探すのよ。」

森田さん「とにかく何か持ってくりゃ良いんです。」

ひろし「そんなアバウトな…。」

アナウンス「それではよ〜い………」

SE:銃声

森田さん「おりゃーーーーー!!」

一斉に騒ぎながらバラバラにはけていく親たち。

ワンテンポ遅れてひろしもはけていく。

さつきも無言でついていく。

そしてすぐに各々手に妙なものを持って戻ってくる。

アナウンス「それでは発表しまーす!白いもの持っている方。白組、森田さんチーーーーム!!」

白チーム「イエーーーーー!!」

ひろしと森田さんら数人の人が、手に持った大根等白いものを掲げて騒ぎ出す。

ひろし「えぇー!?これチーム分けだったんですか!!?」

森田さん「そうです!」

ひろし「何で食べ物を使うんですか!」

森田さん「この辺の地域の名産品なんです。」

ひろし「め、名産品!?」

アナウンス「赤いものを持ってる方。赤組、文子さんチーーーーム!!」

赤チーム「イエーーーーー!!」

文子さんら数人が、人参など赤いものを手に雄叫びを上げる。

ひろし「しかもちゃっかり文子さんがリーダーですか!!」

森田さん「チームリーダーはアナウンスの人が適当に選ぶんです。」

ひろし「アバウトすぎますよ!何なんですかココの運動会は!!」

文子さん「他にも面白い競技がいっぱいあるよ!」

ひろし「物凄く嫌な予感が………」

斎藤さん「あの〜。」

森田さん「ん?なんですか斎藤さん。」

斎藤さん「これはどっちのチームなんでしょう?」

桃を見せる斎藤さん。

3人「………………。」

 

間。

 

森田さん「………斎藤さん、赤チーーーーム!イエ〜〜〜〜!」

ひろし「適当ですか。」

文子さん「適当だね。」

アナウンス「続きましてプログラム第2番、子供達による短距離走です。」

ひろし「おっと!!こうしちゃ居られない!!」

斎藤さん「ちょっと失礼します!」

文子さん「あたしもそろそろ行こうかね。」

森田さん「え?え?皆さんいきなり何ですか?」

ロープの内側に敷いたシートに入り、ビデオを構えるひろし。

斎藤さん文子さんはそでにはけている。

他の親もそでにはけたり、ロープの外に出る。

独りとり残された森田さん。とりあえずひろしについていく。

しかしひろしは相手にしてくれない。

森田さん「………井上さん。」

ひろし「(ビデオを構えながら)なんでしょう!」

森田さん「……井上さん、先程はおつかれさまでした。」

ひろし「(ビデオを構えながら)そうですね!」

森田さん「良く晴れましたね〜絶好の運動会日和ですな!」

ひろし「(まだビデオを構えながら)そうですね!」

森田さん「ダンスも大成功でしたね!」

ひろし「(まだまだビデオを構えながら)そうですね!」

森田さん「見てくださいよ、このたすき!!(たすきをなぞりながら)町・内・会・会・長!

妻がこの日のためにわざわざ用意してくれましてね。ちょっと派手かなとは思ったんですが」

ひろし「(いまだにビデオを構えながら)そうですね!」

森田さん「んなこたねーよ!」

ひろし「(やっと振り向いて)ちょっと邪魔しないでくださいよタモリさん!!」

森田さん「誰がタモリですか!」

ひろし「今からさつきが短距離走に出るんです!

娘の一世一代の晴れ舞台を記録として残すが為にビデオにカメラと準備して構えているのに、

それを撮り逃しちゃったりしたらどうしてくれるんですか!!!」

森田さん「そんな一気にまくし立てなくても良いじゃないですか!

さつきちゃんの出番はもうちょっと後でしょうに。」

ひろし「何かシャッターチャンスがあるやもしれないじゃないですか!!」

森田さん「はいはいすいませんでした!もうビデオを構えながらでも良いですよ…。

(ひろしの横に座って)おや、斎藤さんとこのふゆみちゃんも出るんですか。」

ひろし「(再びビデオを構えながら)そうです、さつきの1つ前のレースです。

あそこに斎藤さんもいますよ。」

森田さん「じゃ、今年も斎藤さんの特技が観られますね。」

ひろし「(ビデオから目を離して)何ですか?斎藤さんの特技って?」

森田さん「見りゃわかりますよ。」

アナウンス「第1レースを開始します。よ〜い」

SE:銃声

親たちの声援。

ひろし「あ!はじまった!!」

再びビデオを構えるひろし。

と、そでから何人かの子供達が駆けこんでくる。

最後尾はふゆみちゃん。

斎藤さんはビデオを構えながら娘と併走している。

斎藤さん「ふゆみーー!!頑張れ〜〜〜〜〜〜〜〜ー!!」

ふゆみ「も〜〜〜パパついてこないでーー!!」

そのまま反対のそでへ疾走する斎藤さん親子。

呆然とするひろし。

因みに1位は将太。

ひろし「な、何なんですか今のは!?」

森田さん「斎藤さんはビデオ録画をしつつ娘さんと併走するという特技をお持ちなのです。

器用ですよね。」

ひろし「はぁ………凄いですね。」

森田さん「娘さんへの愛故にあんな真似ができるんでしょうよ。」

ひろし「親ばかですか。」

森田さん「親ばかですね。」

アナウンス「続いて第2レースを開始します。よ〜い」

SE:銃声。

ひろし「は!(再びビデオを構えながら)そうだ次はさつきの出番だった!!

頑張れさつきーーー!!」

森田さん「井上さんも斎藤さんと同じようなもんですよ。」

ひろし「(聞こえていない)頑張れーーー!!いけーーー!!」

ヒロシの前を、さつきが走っていく。

熱狂的に応援するひろし。

森田さん「まくれまくれーー!!」

森田さんもよくわからん応援をする。

ひろし「ふぅ〜…」

森田さん「お疲れさまです。凄いですねさつきちゃん!1着でしたよ。」

ひろし「さつきは結構足速いんです!去年の運動会でも1位だったんですよ!」

森田さん「へぇ〜大したもんだ!」

ひろし「あの子は母親似ですからね、弥生も結構速いんですよ。」

森田さん「そういえば弥生さんは?」

ひろし「弁当をつくってて遅れてきます。」

アナウンス「続きましてプログラム第3番、栗入れを開始します。」

そこに首から1位のメダルを提げてやってくるさつき。

さつき「……あ…」

ひろし「お、さつき!!みてたぞ〜凄く早かったなー!!」

さつき「………うん。」

ひろし「………よ、よ〜し!父さんも頑張って1位とるからな!!

森田さん、50M走っていつでしたっけ?」

森田さん「え〜っとちょっと待ってくださいね。

午前の部の最終種目だから……第8種目ですね。

それでつーぎーは」

ひろし「栗入れだそうですよ。さっきアナウンスさんが言ってました。」

森田さん「何!?大変だ準備しないと!!」

ひろし「…ところで栗入れって一体なんですか?」

森田さん「(着替えながら)まぁ、玉入れのようなものですね。」

ひろし「はぁ。………で、その格好は?」

森田さん「防具です。」

着替える森田さんをひろしが手伝っていると、将太が入ってくる。

首から1位のメダルを提げて嬉しそうに辺りを見回している。

さつきを発見し、

将太「あ、井上。」

さつき「あ。」

ちょっと気まずいさつき。

さつき「えっっと………ごめんね将太君、この間は…」

将太「良いよべつに。それよりうちのかあちゃん見なかったか?」

さつき「?ううん、見てないけど。」

将太「そっか……」

さつき「…お母さん探してるの?」

将太「うん。ちょっと遅れるって言ってたんだけど……まだ来てないみたいなんだ。」

さつき「じゃあ、さつきが見たら教えてあげるよ。」

将太「あぁ、頼む。じゃな!」

メダルを嬉しそうに手に持ってはける将太。

アナウンス「栗入れを開始します。参加者の皆さんは競技場内に入ってください。」

森田さん「(敬礼しながら)じゃ、行って来ます!」

ひろし「(同じく)行ってらっしゃい!」

妙な籠を背負ってロープ内に入る森田さん。

文子さんも森田さんと同じような格好をして出てくる。

周りにはこれまた謎の袋を持った人々。

森田さん「やったるけんのぅ!」

文子さん「かかってこいやぁ!」

ひろし「…………………何かわかった気がする。」

無言で頷くさつき。

アナウンス「よーーーい!!」

SE:銃声

森田さん「おりゃーー!!いけーーー!!」

一斉に栗(殻付き)を敵チームリーダーの籠に投げ合う人々。

森田さん「逃げろーー!!」

文子さん「よ〜し追えーー!!」

はける両チーム隊長達。

ひろし「やっぱり……」

呆れてみている井上親子。

そこに斎藤さんがやってくる。

斎藤さん「どうも!井上さん。」

ひろし「あ、斎藤さん。お疲れさまです。」

斎藤さん「凄いですよね〜、栗入れ!」

ひろし「……玉入れとはかなり違うんですが、どういうゲームなんですか?」

斎藤さん「敵チームのリーダーが持っている籠に栗を入れ合うんです。」

ひろし「なんで栗なんですか。」

斎藤さん「秋ですから!」

ひろし「なんで殻付きなんですか。」

斎藤さん「その方が燃えますから!」

ひろし「なんてデンジャラスな……」

ふと立ち上がり、シートから離れるさつき。

ひろし「ん?何処に行くんださつき。」

さつき「…ちょっとトイレ。」

ひろし「そ、そうか。」

斎藤さん「行ってらっしゃい。」

さつきはける。

走りまわる人々。

傍観しているひろしと斎藤さん。

ひろし「あ、そういえばさっきの短距離走見ていましたよ〜、凄いですね!」

斎藤さん「(シートに座りながら)いや〜、お恥ずかしいです。」

ひろし「でもわかりますよ…。我が子を応援したい気持ちは私も同じですし。」

斎藤さん「それにやはり娘の晴れ舞台は自分で記録に残したいですよね!」

ひろし「そうですね!」

会話中森田さんと白組軍勢はひろし達の後ろを走り回っている。

花道まで飛び出し大混戦が行われている。

ひろし「………そういえば斎藤さん、あなたも子供を喜ばせたいから特訓を始めたんですか?」

斎藤さん「まぁそうですね。………ちょっと時間がないことに気付いたんですよ。」

ひろし「?なんの時間ですか?」

斎藤さん「うちは他の子がもう大きいですからね。

大きくなるにつれて、交流が少なくなってくるってわかったんです。」

ひろし「…そうなんですか。」

斎藤さん「はい。……僕は運動会で1位になって、娘の喜ぶ顔が見たい!

でもそれは、子供が小学校のうちにしか見られないんです。」

ひろし「何でですか?」

斎藤さん「そのくらいまででないと、なかなか素直に喜んでくれませんからね。」

ひろし「あぁ、なるほど。」

斎藤さん「…そんなわけで、負ける気は毛頭ありませんので!!」

ひろし「私もです!同じ立場ですからね、負けませんよ!」

そこに森田さん達が戻ってくる。

森田さん「ただいまです!」

ひろし「あ、森田さん。お疲れさまでした。」

斎藤さん「どうでしたか?栗入れ。」

森田さん「……勝ちました!!」

そでに向かって指を指す森田さん。

そでから悔しがる文子さんとそれを励ます人々が出てきてはけていく。

大喜びで囃し立てるひろしを含む赤チーム。

アナウンス「只今の結果は22:18で白組の勝ちでした。

続きましてプログラム第5番二人三脚を開始します。」

ひろし「は!」

斎藤さん「そうだ出番だ!」

ひろし「え?斎藤さんも出るんですか?」

斎藤さん「はい、文子さんがペアなんで呼んできます!では!」

走り去る斎藤さん。

ひろし「よ〜し!やるぞー!」

やる気満々でロープの内側に入るひろし。

そこに帰ってくるさつき。

さつき「あ、おとうさん。」

ひろし「え?あ、さつき。」

さつき「(ロープの中に居るひろしを見て)………おとうさん、出るの?」

ひろし「あぁ!大丈夫、絶対1位でゴールするからな!!」

さつき「……………。」

でもやはり不安そうなさつき。

ひろしはそれに気付かない。

アナウンス「只今より二人三脚を開始します。参加者の皆さんは指定の位置について下さい。」

森田さんもひろしの横に入ってくる。

ひろし「あれ、森田さんも出るんですか?」

森田さん「もちろんです!因みにあなたの相方は私です☆」

 

しばしの沈黙。

 

ひろし「えぇえええええええええええええええええええええええ!!」

森田さん「何ですかその反応は、失礼な!」

ひろし「さっき聞いていたでしょう!私はさつきに絶対1位になると約束したんですよ!?

………なのに、森田さんが相方だなんて………」

森田さん「やっぱり失礼ですね!私井上さんほど足遅くないですよ。」

ひろし「う!痛い所を…」

森田さん「まあ大丈夫ですって、(足にヒモを括りながら)

二人三脚は、スピードより相性が大切なんですから!」

ひろし「そうなんですか?」

森田さん「そうなんです。相性さえ合えば勝てるんです!さぁ行きましょう!!」

よろよろそでにはけていく2人。

スタート合図「それでは開始します。よ〜い!」

SE:銃声

そしてスタート直後に盛大に転ぶひろしと森田さん。

ひろし「………森田さん。」

森田さん「………どうやら我々は相性が悪いようで。」

のろのろ走る斎藤さん&文子さんペア。

斎藤さん「お先にー!」

ひろし「………森田さん!!」

森田さん「………井上さん!!」

何かが通じ合ったらしい2人。

ひろし「ファイトーー!!」

森田さん「いっぱーーーつ!!」

突然起きあがった森田さんがひろしを背負って、そのまま走り出す。

ひろし&森田さん「ぬおりゃああああああああ!!」

そのままそでにはけていくひろしと森田さん。

斎藤さん「え!騎馬戦!!?」

文子さん「あたし達も負けてらんないよ!!乗りな!!」

斎藤さん「ぼ、僕が乗るんですか!?」

文子さん「早く!!」

斎藤さんを背負う文子さん。

文子さん「とりゃあああーーー!!」

はけていく2人。

いつのまにやら他の親も同じような格好になり、

二人三脚が騎馬戦へと変わっている。

再び入ってくる親たち。

そこに弥生が弁当らしい大きな包みを持って入ってきた。

さつきと会話している様子。

森田さん「おりゃおりゃーーー!!合戦じゃ、合戦じゃ!!」

暫しの戦いの後、残ったのは文子&斎藤チームVSひろし&森田チーム。

他の親は倒され、ぴよぴよはけてゆく。

アナウンス「おおっと、ここで大将同士の一騎打ちのようです!!」

切り替わる照明。

SE:笛の音。

ひろし「………高田町4丁目6-6!井上家当主、井上ひろし!!」

森田さん「ひひ〜〜ん!」

大根を持ち、身構えるひろし・森田チーム。

観客拍手。

斎藤さん「………高田町3丁目4-24!斎藤家当主、斎藤頼勝!!」

文子さん「ひひ〜〜ん!」

人参を両手に、名を名乗る斎藤・文子チーム。

観客拍手。

斎藤さんとひろし「いざ!………………とう!!」

シャキーーーン

舞台中央で刀を交える両チーム。

文子さん「……お、おのれ!……………………ぐふっ。」

崩れ落ちる斎藤・文子ペア。

文子さんだけぴよぴよはける。

ひろしの大根がリーチの差で斎藤さんの頭部を強打したのである。

ひろし「敵将!討ち取ったり!!」

森田さん「ぽんぽんぽんぽんぽん!」

はけるひろし・森田さんチーム。

客席では盛大な拍手が巻き起こる。

が、さつきはあきれ顔で見ている。

3人「………あれ?……斎藤さん!?」

再び入ってくる大人達。

斎藤さんは動かない。

ひろし「だ、大丈夫ですかー!!?」

駆け寄る人々。

文子さん「ああ、こりゃ駄目だ。気絶してる。」

森田さん「やりすぎちゃいましたね〜、井上さん。」

ひろし「す、すいません!」

文子さん「やれやれ。とにかく、救急テントに運ばないと。」

ふゆみ「パパ!」

ふゆみが駆け寄ってきて、

斎藤さんを運んでいく森田さんと文子さんについていく。

アナウンス「に、二人三脚でした。続きまして、プログラム第6番を開始します。」

ひろし「はぁ……」

弥生「お疲れさまです。」

ひろし「お!弥生。何だいつ来たんだ?」

弥生「たった今来たところです。」

ひろしはとりあえずロープ外の弥生の所に行く。

弥生「残念ですね、斎藤さん。」

ひろし「うん。折角特訓したのになぁ………」

アナウンス「次は子供達限定料理大会です。

会場に家の台所を提供して下さった船越英一郎さんに、皆さん御礼を言いましょう。」

全員で「ありがとうございます!」

さつき「じゃ、行って来ま〜す。」

弥生「行ってらっしゃい。」

ひろし「頑張れよー!さつき!」

何人かの子供達がそでにはけてゆく。

さつきもついてゆく。

ひろし「……はぁ…」

弥生「どうしたんですか?」

ひろし「いや…、そろそろ50m走だろう?ちょっと緊張してきて腹が……。」

弥生「大丈夫ですか?」

ひろし「う〜〜ん………………やっぱり出るの辞めようかなぁ……。」

弥生「………何でですか?」

ひろし「だって、結局さつきとはまだ気まずいままだし。この上失敗するくらいなら」

弥生「ダメですよ!」

ひろし「え!?」

弥生「折角特訓したのにどうしてここで諦めるんですか!

男なら最後までやり抜いてください!!」

ひろし「や、弥生?」

弥生「さつきはまだ去年の運動会のことを引きずっているんですよ!?」

ひろし「え?……でも、だから」

弥生「そのせいであの子はまだ友達が出来ないんです!」

ひろし「………そうなのか。」

弥生「えぇ。あの子はまたいじめられるんじゃないかって不安になっているんです。

このままじゃいけないのよ!あなたがさつきが自信を持てるきっかけにならなきゃ!」

ひろし「そうか……………そうだよな!」

弥生「あなたも自信を持って、頑張ってください!」

ひろし「弥生……わかった!頑張るよ!!」

アナウンス「続きましてプログラム第7番、借り物競走です。」

ひろし「あ!そういえば借り物も出るんだったっけ。忘れていた。」

弥生「頑張ってくださいね!あなた。」

ひろし「ああ!!よっし、やるぞーーー!!」

やる気満々でスタート地点に行くひろし。

そこにさつきもやってくる。

さつき「あれ?おかあさん、おとうさんは?」

弥生「今から借り物競走に出るのよ。」

さつき「…そっか。」

弥生と一緒にシートに座り込むさつき。

森田さんや文子さんも出てきて観戦する。

森田さん「がんばれ井上さーーん!!」

アナウンス「それでは借り物競走を始めます。

位置について、よ〜い」

ひろし「おりゃああああああああ!!」

物凄いスタートダッシュ!

ひろしが1位!………と思いきや、

ひろし「ぐふ!!」

フライング&格好悪く転ぶひろし。

森田さん「あ。」

文子さん「あ。」

弥生「あ。」

 

間。

 

一斉に吹き出す参加者達。

アナウンス「(笑いながら)だ、大丈夫ですか?井上さ〜ん。」

辺りは笑いに包まれている。

いたたまれないひろし。

さつきは下を向いている。

まだ笑いは収まらない。

と、その時

さつき「やめてよ!!」

びっくりして収まってくる嘲笑。

ひろし「え……?」

ひろしを睨みつけるさつき。

さつき「だから言ったじゃない!おとうさんの馬鹿!!」

ひろし「さ、さつき……」

ひろしと目を反らしてそでに駆け去ろうとするさつき。

弥生「あ!さっちゃん危ない!!」

そこにちょうど栗入れの栗が入ったバケツを持った人がやって来る。

さつき「わあ!!!」

ひろしや弥生が駆け寄るが、時既に遅し。

バケツに突っ込みぶつかるさつき。

バラバラと頭から降りかかる栗。

ひろし「さつき!大丈夫か!!?」

さつき「だ、大丈夫……」

しかし顔に手をやると・・・

 

間。

 

ひろし「わーーーーー!!血―――――――――!!!!??」

さつき流血。

パニックに陥るひろし。

さつきの額にハンカチをあてる弥生。

ひろし「だだ誰か医者を!!」

森田さん「救急車――!!!」

ひろし「そうだ!よ、吉江さんは!!?」

森田さん「さっき電話がありまして、急患がはいちゃったらしいんですよ!!」

さつき「そうなの…?」

辺りを見渡すさつき。

しかし将太は居ない。

文子さん「ちょっとみせて!………あ〜とげが入っているね……

早く手当てしないと傷が残っちゃうよ!」

ひろし「ええ!?こうしちゃ居られない!さつき病院行こう!!」

屈むひろし。

さつき「え?でも…」

ひろし「早く!!」

さつき「う、うん。」

負ぶさるさつき。

森田さん「こ、ここら辺だと高田病院が一番近いですよ!」

ひろし「はい!弥生、俺が先にいくから後からきてくれ!!」

弥生「わかりました!」

ひろし「じゃあ行くぞ!さつき!!

おりゃああああああああーーーー!!」

ひろし、さつきをおぶりながら走り出す。

2人を見送る人々。

暗転。

 

 

場面5 走れひろし!


ちょっとして、走るひろしとさつきにサスがつく。

ひろし「うおりゃああああああああああ!!」

遅いけど必死に走るひろし。

さつき「………お、おとうさん、タクシー乗ったら?」

ひろし「そうだな!ヘイタクシーー!!………駄目だ全然来ない!!」

さつき「田舎だからね………じゃあバスは?」

ひろし「そうだな!ヘイバス!………あ、財布忘れた。」

さつき「おとうさん……」

ひろし「だ、大丈夫だ!歩いても行けるから!!」

さつき「ほんとに?」

ひろし「ああ!でも走るぞさつき!」

さつき「う、うん!」

再び駆け出すひろし。

かなり疲れているが、頑張って走り続ける。

さつき「お、おとうさんそっち田圃だよ!?」

ひろし「こんな四角いの回り込んでられるか!斜めに横切ってやる!!

おりゃああああああああああ!!」

(※良い子は真似しないでください。)

さつき「あ!危ない信号赤!!」

ひろし「よ〜し!こんな時は歩道橋だ!」

さつき「おとうさん!階段だよ!?」

ひろし「だ、大丈夫だ!よっ!ほっ!ほっ!ほっ!ととと・・・」

ひろし何とか登り切るが下りで加速がつき、少しよろけて膝をつく。

さつき「おとうさん…」

ひろし「も、もう少しだからな!大丈夫だからな、さつき!!

うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

立ち上がり、再び走り出すひろし。

かなり疲れているようだが、まだまだ走り続ける。

負ぶさりながらひろしを見ているさつき。

だんだん2人を照らしていた照明が暗くなってくる。

 

 

入れ替わりに後ろ舞台が照らされていく。

そこを将太が辺りを見渡しながらゆっくりと歩いてくる。

舞台は運動会の終わり。

出場者の親子達が楽しそうに帰り支度をしている様子が薄く見えている。

それをぼうっと見回し、手に持ったメダルを見る。

将太「…………………うそつき………」

つぶやく将太。

顔は下を向いていてよく見えない。

照明消えていく。

走り去る将太。

暗転。

 

 

場面6 頑張れおとうさん!


しばらくすると照明再び点く。

そこは夕方の公園広場。

運動会の後らしく、ロープやゴミなどが転がっている。

そこに入ってくるひろしとさつきと弥生。

ひろし「は〜………良かった良かった。」

弥生「大したこと無かったですね。」

ひろし「いや、そんなこと無いぞ!トゲは体内にはいると怖いんだからな!」

弥生「そうなんですか?」

ひろし「ああ!血流に乗って心臓まで行くと死んじゃうこともあるんだ!

栗のトゲを侮っちゃいけないぞ!!」

弥生「はいはい、わかりましたから。」

周りを見渡すさつき。

さつき「運動会、終わっちゃったね。」

ひろし「残念だったな。」

弥生「検査で時間がかかったからねぇ。」

ひろし「念のためだ!さつきに万一のことがあったら大変だろう!!」

和やかに会話している井上一家。

そこにゴミなどを片付けながら入ってくる森田さんと斎藤さん。

森田さん「あぁ井上さん。お帰りなさい。」

ひろし「あ、森田さん…斎藤さん!もう大丈夫なんですか?」

斎藤さん「おかげさまでなんとか。」

ひろし「そうですか、それはよかった。」

森田さん「さつきちゃん、もう大丈夫?」

さつき「うん!」

弥生「どうもお騒がせしました。」

斎藤さん「良かったですね。」

ひろし「ところで運動会はどうでしたか?」

斉藤さん「見ての通りです。4時ごろに終ってしまいました。」

ひろし「では森田さんと斎藤さんは何を?」

森田さん「ちょっと片づけにね。本当は、毎年運動会の次の日にやるんですが。」

斎藤さん「皆さんにご迷惑おかけしましたから、少しでも掃除しとこうと思いまして。」

森田さん「私はそのつき合いです。」

ひろし「よ!さすが高田町町内会名誉会長!」

森田さん「おわー!井上さんが私をほめた!!」

ひろし「森田さんがいつも変な事しかしないからですよ。

あ、少しなら手伝います。」

さつき「さつきも手伝う!」

斉藤さん「ありがとう。」

ふゆみ「(そでから)パパ〜!ビニール袋もう一枚持って………」

ふゆみ入ってくきて、さつきに気がつく。

井上さん「おや、ふゆみちゃんもお手伝いですか。」

斎藤さん「ええ。」

ふゆみ「…………………さつきちゃんも、一緒にやる?」

さつき「……う、うん!」

ふゆみ「あっちの方やろ〜!」

さつき「うん!」

さつきとふゆみはけていく。

弥生「良かったですね。」

ひろし「……あぁ。」

森田さん「さーて、我々も始めますか!」

斎藤さん「そうですね!」

5人それぞれ片付け始める。

ひろし「………そういえば森田さん、50m走はどうでしたか。」

森田さん「ん?私も出ていませんよ。」

ひろし「え!?なんでですか?」

森田さん「あの後斎藤さんに付き添っていたんです。

独りだけ走るのはちょっと心苦しかったので…。」

ひろし「そうなんですか。」

と、そこに吉江さんが物凄い勢いで駆け込んできて森田さんにぶつかる。

森田さん「おぅわ!!びっくりした〜!!」

ひろし「あ!よ、吉江さん!!どうしたんですか!?」

斎藤さん「病院の方はもういいんですか!?」

吉江さん「え………えぇ…も、もう終わってしまいましたか!?………運動会!」

弥生「はい、残念ながら……」

吉江さん「…そ、そうですか………」

へたれこむ吉江さん。まだ息切れしている。

ふとみると、将太が出てきていて吉江さんを睨んでいる。

森田さん「あ……将太君。」

吉江さん「え?あ…………」

まだ吉江さんを睨んでいる将太。

吉江さん「……ごめん、ごめんね将太。お母さん」

将太「かあちゃんのうそつき!!」

さつきとふゆみがやってくるが、ただならぬ雰囲気に黙る。

森田さん「将太君、お母さんは急患がでて仕方なく、」

将太「うるさい!!もうそんなの聞き飽きたよ!!」

吉江さん「将太……」

将太「…………………入学式も、参観日も、運動会も、いつもいつも仕事仕事仕事!!

何だよ……かあちゃんは俺より仕事の方が大事なのかよ!!」

弥生「でも、病人を放っておく訳には、」

将太「わかってるよ田舎の病院だから忙しいのくらい!!

………でも、4年だぞ……………4年間ずっとかあちゃんは行事2に来てくれなかったんだ!!」

皆「……………」

将太「………おっちゃんらに、運動会で1人で弁当食う気持ちわかるかよ!」

将太、首のメダルを床にたたきつけ、そでに走り去る。

吉江さん「将太!」

さつき「おばちゃん!将太君、運動会のために走る特訓してたんだよ!!」

吉江さん「…え……?」

さつき「今年の運動会は久しぶりにおかあさんが見に来るって、はりきってたんだよ!」

ふゆみ「そういえば…短距離走で一着だったね。」

さつき「うん。……………あのね、おばちゃん。将太君はずっと寂しかったんだよ。」

吉江さん「でも、あの子………そんなこと一度も」

森田さん「言えなかったんでしょう。

あの子は吉江さんの仕事のことをちゃんと理解している。

だからこそ、今まで我が儘も押さえてきたんでしょうね。」

メダルを手にとって見つめる吉江さん。

吉江さん「………あの子が、こんなに怒ったのを見るのは初めてです。

……………私………」

静かに見守っているひろし。

しかしここで前に出る。

ひろし「……………………文子さん!!」

文子さん「(そでからひょっこり)はい!?」

森田さん「うわあ!!」

ひろし「お願いします!走って将太君を捕まえてきてください!!」

文子さん「え?何であたしが!?」

ひろし「いいから早く!!」

よく判らないが、とにかく駆け出す文子さん。

案外素直。

斎藤さん「文子さんいつの間に………」

森田さん「井上さん、ばーちゃんがのぞき見してるのにいつ気付いたんですか?」

ひろし「将太君が走っていった辺りで。ここは文子さんのランニングコースじゃないですか。」

森田さん「そういえばそうですけど。」

弥生「将太君を呼んで来て貰って、どうするんですか?」

ひろし「ちょっと言いたいことがあってね。」

そでからわめき声が聞こえてきて、将太を担いだ文子さんが現れる。

将太「なんだよ離せよ!いきなりなにすんだよばーちゃん!!」

文子さん「あたしだって良くわかんないよ!ほれ井上さん、連れてきたよ!!」

将太を下ろす文子さん。

ひろし「どうも。」

将太「……何だ。さつきの父ちゃんが呼んだのか…。」

ひろし「ああ。どうしても1つ言っておきたくてね。」

将太「何だよ!」

ひろし「将太君は運動会に向けて特訓していたんだってね。」

将太「え?何でそれを……………あ!」

さつきを睨みつける将太。

将太「何で言うんだよ!言うなっていっただろ!!」

さつき「ご、ごめん。」

ひろし「将太君。」

将太「なんだよ!」

ひろし「おかあさんも特訓してたんだよ。」

将太「え?」

吉江さん「井上さん……」

ひろし「おかあさんも、運動会に向けて特訓していたんだよ。」

将太「………う、嘘だろそんなの。」

ひろし「本当だよ。だって………おじさんたちとやっていたんだから。」

さつき「え?」

斎藤さん「井上さん!」

ひろし「皆さんすみません。でもこれだけはいっとかなくちゃ。

将太君。」

将太「………何だよ。」

ひろし「運動会を楽しみにしていたのは、おかあさんも一緒だったんだよ。」

将太「!」

吉江さんを見る将太。

吉江さん「…………………ごめんね。応援、できなくて。」

将太「……………」

下を向く将太。

吉江さんが将太に近づきメダルを手渡す。

笑顔で見守る皆。

ひろし「………さ〜てと、将太君!」

将太「…何。」

ひろし「今からお母さん、おじさんたちと競争するから、応援してあげてね。」

森田さんと斎藤さん「は?」

森田さん「え!?ちょっと待ってくださいよ井上さん!!いきなり何を言い出すんですか!?」

ひろし「いいじゃないですか、ちょうど人数も結構いますし。決着つけましょうよ。」

森田さん「け、決着って何のですか?」

ひろし「もちろん50メートル走の決着ですよ。

結局誰も走ってないじゃないですか、今ここでだれが1位か白黒つけましょうよ!

………それに、私は文子さんとも決着付けたいんです。」

文子さん「え?あたし?」

ひろし「はい。絶対棄権しない、手加減はしないと約束したのに私はレースに出ませんでした。」

弥生「でも、あれは」

ひろし「お願いします!今約束を守らせてください!」

文子さん「…………しょうがないね。いっちょやってやろうか。」

ひろし「あ、ありがとうございます!」

文子さん「…それに、約束破ったのは井上さんだけでもないしね。」

ひろし「え?」

吉江さん「そういえば、今年も優勝は文子さんだったんですか?」

文子さん「違うよ。」

斎藤さん「え?じゃあ優勝は誰だったんですか!?」

文子さん「2丁目の船越英一郎。」

森田さん「何!?船越が!?」

ひろし「何者なんですか…」

吉江さん「文子さん、とうとう負けちゃったんですか!?」

文子さん「いや、レースを棄権したのよ。」

ひろし「え?何でですか?」

腕を組んでふんぞり返る文子さん。

で―――ん

文子さん「あんた達を、待っていたんだよぉ!」

斎藤さん「文子さん………。」

森田さん「ばーちゃん………?」

ひろし「かっこいい………!」

文子さん「それにね、あんたたちの馴れ合い特訓とあたしの根性、

どっちが上か決着つけようじゃないの!!」

森田さん「ばーちゃん、もしかして特訓仲間に入りたかったんじゃないの!?」

文子さん「(無視)さ〜とっとと始めようじゃないの!!」

ひろし「そうですね。弥生、スタートの合図してくれないか?」

弥生「わかりました。頑張ってくださいね、あなた。」

ひろし「あぁ!」

さつき「おとうさん。」

ひろし「ん?」

さつき「…特訓してたって………本当?」

ひろし「……あぁ。」

さつき「なんで教えてくれなかったの?」

ひろし「驚かせたかったんだよ。失敗してしまったけど。

………ごめんな、さつき。今年も恥ずかしい思いさせて。」

さつき「……………」

ひろし「でも、とうさん頑張るから。

今から練習始めて、来年の50mで絶対1位になるから!

だからさつきも」

さつき「……え…?」

ひろし「………さつきも頑張って、もっと友達つくってほしい。」

さつき「……………」

下を向くさつき。

ひろし「じゃ、始めましょうか!

今日は向こうに走りましょう。(正面を指さして)あっちの木まで。」

森田さん「え?何でですか?ここからあそこまで100mくらいありますよ。」

ひろし「(こっそり森田さんに)それですよ!距離が長い方が文子さんに勝てるかもしれないじゃないですか。

実は私、長距離の方が得意なんです!」

森田さん「それが狙いですか。これまた邪道ですね。」

ひろし「邪道で結構!元より勝つ気で走りますからね。」

吉江さん「森田さんに似てきましたね、井上さん。」

ひろし「うわぁ!」

森田さん「よ吉江さん聞いて」

ひろし「お願いします…文子さんにはどうか内密に」

吉江さん「良いですよ。」

ひろしと森田さん「え?」

吉江さん「何ですかその『え?』っていうのは。」

ひろし「いや………、いともあっさりOKしてくれたもので………」

吉江さん「まあ不正はきらいですよ。でも……」

ひろし「でも?」

吉江さん「…実は私も長距離派なんです。」

2人「吉江さん…?」

吉江さん「私も負けられませんからね!」

弥生「それでは、みなさん位置についてください!」

斎藤さん「今度こそ負けませんよ、文子さん!!」

文子さん「ふん、せいぜい頑張るんだね!」

やる気満々で騒ぐ大人達。

スタートラインに立つ5人。

それぞれいろんなポーズで構える。

弥生「良いですか?では行きますよ〜!!

………よーーーーーーーい、ドン!!

一斉に走り出す5人、

それぞれ応援する子供たちと弥生。

大きくなっていく音。

少しずつ走っているひろしとさつきにサスがついていく。

じっとひろしの後ろ姿を見ているさつき。

しかし、ふと口の横に手をあてる。

さつき「……………………頑張れ、おとーさん!」

ひろし驚いて立ち止まり、さつきを振り返って、

ひろし「……………………ああ!!」

また振り返り、正面を見据えて走り出す。

走り続ける大人達。

次第に照明がシルエットにかわり、暗転していく。

 

 

勝負の行方はわからない…。

 

 

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