一般に、教科書レベルがきちんと理解できていればセンター試験では6割が得点できるといわれている。
ところが、教科書といっても、レベルが大きくちがう。ここに誤解が生じる余地がある。
たとえば、
数学の教科書にしても、数研出版は6種類のレベルの教科書を発行している。正確には数研出版名義のものは3種類であるが、これは、法律上、1つの出版社は3種類までと決められているからである。残りの3種類の教科書は、グループ企業に出版させている。形式的には別会社が発行していることになる。
さまざまなレベルの教科書があるにもかかわらず、教科書がわかっていればセンター試験で6割が得点できると一般の高校生は思い込んでいる。ところが、レベルの低い教科書だと、すべてを理解していても、6割の得点は見込めない。
以前、ほかの予備校で非常勤講師をしていたときに、どう考えてもセンター試験で6割の正解は見込めない学力なのに、のんびりとしている生徒がいた。「そろそろ、本気出したら、どう?」と言ってみても、「大丈夫ですから」という。いったい、なにがどう大丈夫なのかと思ったので、ちょっと話してみたところ、自分の高校の教科書に書いてあることが理解できているので、6割は大丈夫で、第1志望の大学は6割の得点で合格できるところだから、余裕なんだという。
教科書レベルがわかっていれば6割といっても、基本的にはいちばんレベルの高い教科書での話であって、レベルの低い教科書では6割は難しい。しかも、レベルの高い教科書でも、
数学の場合、「章末問題」もきちんとこなせていなければならない。
結局、自分の通う高校で使用している教科書が理解できるということで、彼は大きな勘違いをしていたのであった。
大学受験について語る場合、たいていの予備校講師にしろ、受験関係の出版社にしろ、レベルの高い教科書しか念頭においていないので、誤解が生じるのである。「教科書レベル」と予備校講師がいう場合、「いちばん難しいレベルの教科書のレベル」という意味なのである。
問い合わせ電話があった。高校生1年生の子どもは娘なので、文学部ぐらいでいいという。話の流れで、あちこちの文学部について、どういう特色があるかとか、女子学生の就職状況はどうかとか、話しているうちに、「早稲田の文学部の
英語だと、文法的に完璧に理解したうえで3年分の教科書を日本語を見ながら暗唱できるようにして、
過去問を解いておけば、よほどのことがないかぎり合格点がとれますよ」と言った。「それがなかなかできないんですが」とはつけ加えておいたのだが。
すると、問い合わせた母親の声が、すこぶる明るくなった。今にして思えば、「なあんだ、早稲田って、意外と簡単なんだ」と思ったらしい。その母親は、娘がもう早稲田に合格した気になって、ほがらかな様子で、「いろいろと情報をありがとうございました」と言ってから、電話を切った。
うちに入らないだろうなと思いつつも、その高校についてはあまり知らなかったので、
偏差値や進学実績などをいろいろと調べてみた。
使用している教科書がわかった。
教科書を文法的に理解した上で暗唱できるようにしたとしても、いわゆる中堅大学にできるかできないかというレベルの教科書を使っていた。
しまったと思ったが、問い合わせの電話があっても、住所・氏名・電話番号を訊ねるようなことはしていないので、訂正しようにも、連絡先がわからない。営業電話をしないから、こちらから積極的に訊ねることは基本的にしていないのだ。
万が一、再び、電話での問い合わせがあれば、訂正しようとは考えていたが、結局、そのままになってしまった。
ちなみに、ウェブで検索した場合の標準的な
偏差値ランキングでいうと、残念なことだが、
偏差値58以下からは基本的には早慶の合格者は皆無といえる(例外はあって、都立大山高校(
偏差値43)から早稲田に合格した人を知っている)。58から63の間だと、学校にすこぶるつきの進学熱があれば、少しは合格する。早慶を目指すならば、最悪でも
偏差値63以上の高校(中学受験ならば50から55あたりよりも上)でないと難しい。さまざまな理由が複合的に絡み合っているが、まず、使用教科書のレベルが低いので、完璧にマスターしても、大学受験に関しては、超えられない壁がどうしてもできてしまう。それを乗り越えるのは、並大抵の努力ではない。