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教育現場の今 〜教育者に求められること〜

聖徳大学児童学部教授 聖徳大学附属取手聖徳女子中学校・高等学校 元校長
長野雅弘先生に聞く(2015年02月)

― 今の教育に必要なこととは

長野先生
長野雅弘先生:1956年名古屋市生まれ。南山大学外国語学部卒業。2001年に一宮女子高等学校に教頭、翌2002年に同校校長に就任。2009年からは聖徳大学附属取手聖徳女子中学校・高等学校長を7期務めた。2011年からは聖徳大学児童学部教授にも就任。

 今,教育は大変革期を迎えています。文部科学省主体の改革が進み,大学入試も大きく変わろうとしています。暗記した知識の量ではなく,知識を如何に活用して思考・判断・表現できるかを問うものとなると予測されます。従来のマークシートの選択肢方式ではありません。子どもたちには,教科横断型の問題解決能力,「生きる力」を育むことが必要となります。

 児童・生徒たちと直接接している私たち教育現場も,変わっていかなくてはなりません。しかし,研究者・有識者主体の教育制度・内容の改革と,現状維持・安定を求めている学校現場で温度差があることは事実です。この状況下で私たち教師は,子どもたちが犠牲にならないようにということを第一に考えなければなりません。子どもへの焦点をずらしてはいけません。

 それでは,どのようにすれば子どもたちが”自立“できるように、育てることができるのでしょうか。それには、Project Based Learning,所謂,問題解決型学習に日々の授業でも積極的に取り組ませていかねばならないと考えています。時には,答えの出ない問題に敢えて取り組み,自分なりの答えや解決策を見出そうともがくことも必要となります。

 子どもたちは,毎日毎日目まぐるしく「変化」をする存在です。何か「できないこと」があっても,それだけで「できない子」だと決めつけてはいけません。大人であっても周囲の状況や人間関係等の変化により,人の考えは日々変化します。子どもたちの素直な吸収力と柔軟性は,変化すなわち「成長」に結びつくもの。私たち大人は,その可能性を信じ,潰すことがないように接することが大切です。「あなたは○○だから……」「○○できない子はダメだ!」等という決めつけは言語道断。子どもたちの心の中に生まれる壁,限界を作ってしまうのは,身近で接する大人です。私たち大人は神でも仏でもありません。決めつけはいけません。

― 褒めて育てる教育とは

 子どもは褒めて育てるのが一番!これは,脳科学的にも実証されていることです。褒められた子どもは幸福を感じ,脳内に100億から150億個あるスピンドルニューロンを大きく伸ばします。このニューロンは,美しい風景を見たり美味しいものを食べた時も伸びますが,一番伸びるのが「一生懸命にやったことを他者に褒められた時」です。しかも,母親が褒めるのが一番有効であることが,アカゲザルで実証されています。ニューロンを伸ばした子どもはストレスに強くなり,困難に直面しても粘り強く,前向きにがんばることができるようになります。また,考え方や想像力に良い影響を与えます。 

 しかし,だからと言って,子どもたちに迎合してはいけません。「ダメなものはダメ!」と社会規範やルールを教えることも大切です。幼少期に躾がしっかりできている子どもほど学力が高いとも言われています。子どもたちを褒める・叱る時に気を付けたいことが,「結果」を褒めない・叱らないことです。結果を褒めると子どもたちに報酬型の学習動機を植え付けてしまうことになります。

 褒める時は,子どもたちの取り組みの過程を褒めてあげてください。「結果」に拘らずがんばって取り組んでいたならば,褒めてあげたいものです。「結果」ではなく「過程」を褒めるためには,子どもたちの取り組みの様子を,じっくり見守らねばなりません。手と口は極力出さずにじっと見守ることが,子育てでは大切なのです。

― 男の子と女の子の違いとは

 また,男の子と女の子では,その接し方を変える必要があります。男の子は「冒険心」のかたまりです。その「冒険心」をくすぐるのが,上手に伸ばすコツ。ちょっと難しい問題を与えても,男の子は果敢にチャレンジします。そして,伸びていくのです。

 しかし,女の子は違います。女の子に必要なことは「安心感」。いきなり難しい問題を見せられると,チャレンジするどころか,固まって動かなくなってしまうこともあります。スモール・ステップで,達成感・「分かる」「できる」という実感を与えながら,伸ばしていかねばなりません。女の子は「自己評価が厳しい」という側面もあります。一歩一歩着実な歩みを刻ませることが自信に繋がり,自己有用感が持てる子に育てます。また,ドリル形式の問題を与える際も,初見に弱い女の子には,同レベルの他の問題を多めに解かせる等の工夫も有効です。

 脳科学的に見ても,男の子と女の子では大きな違いがあります。中学校・高等学校で男女別学が有効なのは,それぞれの特性に合った教育をすることができるからです。日本で別学に取り組んでいる中心は,私立学校です。

― 受験を親子の成長の機会にする

 小さな子どもたちにとって,受験は高いハードルです。しかし,「過程」をしっかり見守られて育った子どもたちは,「結果」を恐れることはないはずです。将来の夢,希望で大きく胸を膨らませ,「入学後,その学校で,自分が何か一つのことに夢中になり,がんばっている姿」をイメージさせて,入学試験に臨ませたいものです。

 子どもたちだけでなく,保護者の皆さまも同じです。自分自身の「変化」「成長」のために,読書をしたり,専門家による講演を聞いたりすることも必要なことです。子どもたちに指示を与えるのが、大人の仕事ではありません。まずは,本物とじっくり向き合い,自己の内面を成長させる努力をしましょう。その背中を見た子どもたちは,必ずや大きな成長を遂げてくれるはずです。


長野先生の著作品のご紹介

「勉強ができない」と思い込んでいる女の子とお母さんへ: 思春期の「学力」を伸ばし「心」を育てる45の言葉 いじめからは夢を持って逃げましょう! ――「逃げる」は、恥ずかしくない「最高の戦略」 あなたの子どもは頭がいい! ──小さな子どもの学力を、ラクに、グ~ンと伸ばす3つのお話


「いじめからは夢を持って逃げましょう!」
子どもが重大ないじめにあっている場合、本人だけでは解決できません。「子ども同士で解決させよう」という大人は、事態から逃げています。子ども同士で解決できないので、執拗に陰湿ないじめは続きます。そして、苦しみぬいた子どもが死を選択せざるを得ないケースが多々メディアで報道されています。解決するためには、子どもを逃がしましょう。ただし、夢をもって逃がさなければ、「負け」という意識が強く残り後々良くありません。夢をもっていじめ現場から逃げれば、3ヶ月ほどの大人のアフターケアで子どもが生き生きして自分を伸ばそうとします。いじめの現状と夢をもって子どもを大人が逃がしてあげる手順を実例をもって紹介しています。
その他、長年の女子教育の経験に基づいた「女の子の学力を伸ばす」ための著作や、復習継続法により「子どもの学力を向上させる」方法を紹介する著作など多数の著作品があります。(長野先生の著作品の一覧


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