『 進路について 』 千葉県立柏高等学校長 鈴木 実
進路と言われるとまたかと思われる人もいるでしょう。小学校の時は、「大きくなったら何になりたいの?将来の夢は?」、中学生になると「どこの高校に行きたいの?」、高校生になると「どこの大学に行きたいの?」、と言われてきたと思います。すると、大学生になれば「どこの会社に就職したいの?」と聞かれることが予想されるでしょう。聞いてくる人は、家族や親せき、教師が多いかな。「自分が歩む道、歩むべき道、歩みたい道」という極めて個人的なことなのに周囲の人が関心を持っていて「しっかり進路について考えなさい」と言われているようで息苦しいかもしれません。
その背景には、人間、ただ漫然と生きているより夢や目標に向かって努力する方が、より充実した人生を送ることができるという道徳があるからだと思います。
先日、私が、17年ほど前に小金高校で担任をしていた時の卒業生に逢う機会がありました。高校では弁護士になるのが夢と言っていて中央大学の法学部に進学した女子生徒ですが、大学卒業後は大手不動産会社に就職し、マンションや戸建て住宅を販売するため、まず、立地の良い土地を地権者や法人と交渉して用地を取得することから始め、会社でプロジェクトチームをつくって、設計、建設、販売支援まで行っているとのことでした。高額な取引となるため信用を得るための苦労はあるが、最後には地権者と購入者双方の喜びがあり、同時に地域の環境や街づくりにも貢献し、大変やりがいを感じるとのことでした。大学で学んだ土地や家屋の売買契約や相続税、贈与税などの法律の知識が役に立っているとのことでした。
明治大学の理工学部に進学した男子生徒は、SEを希望してIT企業に入社しましたが、会社では、SEでなくプログラマーとして仕事を任されているとのことでした。顧客企業の要望に合わせてプログラムを組む仕事ですが、システムが正常に稼働するのはあたりまえであり、エラーやトラブルが発生してしまうと、顧客企業の業務が停止してしまい大きな迷惑をかけるため、修復に何日も深夜まで対処するとのことでした。そのため、より安定して稼働するプログラムを作らなければならないことを身をもって経験しているとのことでした。また、顧客企業にもっと良いシステムやアイデアを提案することも多く、大変だけれども頑張っているとのことでした。
それでは、少し別の視点での話をします。近年「働く」ということの価値や態様が大きく変わり始めているということです。毎日、決まった時間に出社して対面式で仕事をするスタイルから、コンタクトレスである在宅勤務やサテライト勤務といったリモート就労は、今後の労働インフラとなって定着していくでしょう。すなわち単なる情報の伝達や定型的なルーチンワークはリモートになり、創造的、統合的なワークはリアルでというように多様化、効率化、差別化が図られるでしょう。労働の対価である報酬についても時間給でなく成果主義へ移行していくでしょうし、デジタルマネーでの給与払いとなることもIT業界を中心に増えていくでしょう。これらは、人々の生き方、働き方のスタイルを変え、多くの場面でパラダイムシフトが進行していくでしょう。そのためには、現状の脆弱な情報セキュリティシステムの改善や情報通信網の拡充を進める必要があるので、それらの関連業種は、しばらくは発展拡大していくでしょう。皮肉にも、今、世界中の人々を苦しめている感染症(COVID-19)の感染拡大が、よりそのピッチを速めました。
さて、皆さんは自分の進路をどのように考えますか。 ( 令和3年5月20日 )